【人】 住職 チグサ[境内から去る前に、もう一度声をおかけしました。] 差し出がましいことを申し上げますが──どうかお忘れなきよう。 この世界のどこにも、既にあなたのお母さまはおられない。 あなたがお母さまを見つけられるとすれば、ご自身の胸の内だけです。 あなたが「天に召されず、無念のままに果てた」と思ったなら、そのように。 あなたが「多くの苦難があったけれど、それも含めて母の人生だった」と思ったなら、そのように。 お母さまは肉の体から離れられました。 その姿かたちは、あなたの中で、如何様にも変わっていくでしょう。 あなたのお母さまを安らかに眠らせられるのは、私ではありません。 この島でも、国でも、神や御仏でもありません。 そのようなお力を持つお方は、ただ一人、あなた自身だけ。 どうか、そのことをお忘れなきよう。 [お弟子さんでもないお方に口出ししても、うるさいばかりでしょう。 それでもお説教をせずにはいられないのは、和尚の性でしょうか。 深々と合掌しながら、心の中でだけ、「いつも応援しております」と唱え、お見送りいたしました。]** (104) 2022/11/06(Sun) 10:17:18 |