【人】 1年生 工藤美郷彼女の中に私の心が溶けている間、おそらくは私にも皆さんと同じように世界が見えていました。 全く同じではなくても、かなり近しく。 小泉先輩の顔を見れば、私を疑っているのが分かりました。 声を聴くだけで、怒っていることも分かりました。 その怒りの後ろに、私や、他の人たちの身を案じる心を見ました。 それらの先輩の心に気づくたびに、私の中に先輩を評価する心が溢れ、合わせて反応するたびに苦しくなりました。 [「彼は私を疑う人」と評価して、だからごまかさなければいけないと思った。 「彼は私に怒っている」と評価して、だから逃れなければいけないと思った。 評価に応じた、「だからこうしなければいけない」という思い。] あれは、精度の高い妄想だったのでしょう…… [その能力は、人間社会を円滑に回すためには欠かせないものだけれど、自分の心を潰す圧力も伴っていた。 この心を他の人たちが持っているのならば、なるほど、工藤とはまた別種の生きづらさを抱えているのだろう。] (105) 2022/09/08(Thu) 21:14:45 |