【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>114 「そりゃこっちの台詞だ、あんたが大人になっちまう日が来るとは思っちゃいなかった」 車に体重を預けながら、悪餓鬼のような笑みを浮かべる。 怒りと苛立ち、嘲りと――仲間意識。 そういったものがないまぜになって、ぐつぐつと、 耐えがたいはずの悪臭を放ち煮えたぎるような凶相。 なのにそれは、どこまでいっても笑みと表現されるものだ。 「──俺だってガキじゃあいられねえ。ただ、どーでもよくなる時だってある」 はるか遠くを過ぎゆくプレジャーボートのエンジン音が、波を伝い足元にまで響いてくる。 そうして、あなたの漏らした言葉には、一瞬きょとん、と目を丸くして。 「──ハ」 「気色悪いこといってんじゃねえよ」 ははは、ははは、と。抑えきれなくなったような哄笑が、途切れ途切れに漏れ出して。 「──オッサン、コラ。ノンビリ吸ってんじゃねえぞ」 かつては大人と子供ほどに離れていた年齢は、今やすっかりと希釈された。 それなのに、その口調は悪態をつく子供のようだ。 ポケットに片手を突っ込んだまま、車に手をついてゆっくりと回り込む。 おぼつかなかったはずの足取りは、舗装された足元を引きちぎるかのように重く、強い。 ぴりぴりと、引き絞られたか弓矢のように、それは放たれる時を待っている。 #BlackAndWhiteMovie (115) 2023/10/01(Sun) 9:41:54 |