【人】 橘 幸也[ 待ち合わせのホームに着いた時には身だしなみなんて気にしてられる状態じゃあなかった。華さんの姿を見つけて、はあはあと荒い息を整えるのが精いっぱい。ともあれ、新幹線の時間には無事に間に合ったんだ。あんな経験二度としたいことじゃなかったけどね。] [ そうして、ローカル線と路線バスを乗り継いで行き着いた温泉街。ちらちらと雪が降る曇天模様も街並みの照明を引き立てるかのようで、幻想的にさえ感じられていた。] ……うん。 あ、寒いならカイロ、使いますか? バスの中で出してきたんです。 [ 傍らを歩く華さんを見て、僕はダッフルコートのポケットから使い捨てのカイロを差し出した。そう声にする息さえもすぐに白い湯気になって、冷たい外気に交じっていく。 そうしてしばらく進んでいくうちに、目的地の宿が見えてきた。 冬限郷。一泊二日の小旅行。 少し胸がどきどきする感じがする気がして、華さんをちらりと横目で見た。] (119) 2020/12/26(Sat) 23:24:50 |