
![]() | 【人】 味覚喪失 ラグナ― 回想 ― [親の顔は覚えていない。 顔を覚えられる頃に姿を消されたのか、ないしは記憶が吹き飛んだのか。どちらにしろ幸福な事ではないのでどちらでもいい、気にもしていない。 身寄りも無ければ力も無い幼子ができる事なんて道端に落ちている物を拾って食べるか人から盗るか。 施し?そんな優しいものがこの世にあるのか? 人に踏まれ、殴られながらもとにかく生きる事に必死だった。 ようやく働く事ができる年、或いは体付きになれても、そもそもに碌な稼ぎ先の無い地域だったが為に入る収入は少なく、また盗まれる事も茶飯事だったので衣食住の全てがいつまで経っても不安定だった。 特に、望みもしないのに成長するこの体が、求める食事の多い事。居住は諦め仕事着と食事に賃金の全てを宛がっていたが、それでも足らない日々を送っていた。 何度も、何度も。濁った水を飲み野草を食み土まで頬張った。 知っているだろうか? あの味を。あの臭さを。苦さを。吐き気を。 それでも食べなければいけない苦痛を。 慣れる事等一切なかった。] (121) 2024/08/25(Sun) 0:37:24 |