【人】 灯守り 立春[ここは " 立春 " 統治域。華やかな春の訪れを告げる季節を拝命したこの土地は、 冬の匂いを随所に色濃く残しながらも はじまりを予感させる生命と希望に溢れている。 統治域の半分ほどは雪原と針葉樹林に覆われ、 小さな村や集落が点在している。 中央域に程近い街は特に活気に満ちていて、 多種多様な商店や飲食店が立ち並び、人通りも多い。 両隣の"大寒"・"雨水"統治域との交易も盛んだ。 雪解けを待つ寒冷な気候にあっても豊かな生命が育まれ、 その生命を糧にまた他の生命が命を灯す。 生まれ育った"芒種"の統治域に比べれば 随分と寒いはずのこの地の背筋の伸びるような空気が、 故郷より肌に馴染むようになったのはいつからだっただろう。 私がまだ師匠の、先代立春の弟子だった頃は。 『東風解凍』と呼ばれていた頃は、 まだつめたい風にもう少し凍える日もあったと思う。 広場を抜け、路地を過ぎ、雪解け水の流れる小川を渡った先。 よく手入れされた黄梅の梅林をまっすぐに進んでいくと 突き当たりの高台に、この統治域を見守るように 天高く聳え立つ大きな樹が一本ある。それが "入口"。 大樹の前で白い吐息をひとつ吐き出すと、 呑み込まれるように樹の中へと沈み込んだ。] (127) 2022/01/16(Sun) 20:21:55 |