【人】 曳山 雄吾[ どれだけのバーの扉を開いたことだろう。 成人して父親の会社に就職し、 いずれはそれを継ぐべき立場を明確に意識した頃。 雄吾は、繁華街から少し離れた所にある、 とあるバー>>0:44の常連と言える客になっていた。 彼が30歳を少し超えた頃だから、 かれこれ5年は通っていることになる。 初めて訪れたその日はみぞれ混じりの寒い日で、 コートの襟を立てて訪れた。 冷たい雫がスラックスまで染み込んで、 ひどく不快な気分だったことを覚えている。 雄吾よりは幾らか年上のマスターが、 コートを脱いで掛ける様子に一声、掛けた。 「寒かったでしょう。何になさいますか。」 何でも。温かいやつを。とにかく、寒かった。 そう答えたことも覚えている。] (127) 2020/07/13(Mon) 23:39:31 |