【人】 第11皇子 ハールーン「へぇ……これおまえが作ったのか。 大したものだね。あの頃は泣いてばかり いたのに。」 [優雅に躊躇いなく菓子に伸ばされる指は、それをその口へ運ぶ。その光景をただ見ていた。何も出来ないまま、声が出せなくなるのはあの頃と全く同じだ。呼吸が浅くなって無駄に動悸が早くなるところまで。 目は合わせていないのに、蛇に睨みつけられたネズミのようだ。] 「うん、美味いな。ハールーン どうぞ?」 [一口齧られたショートブレッドを差し出されるというその行為を、一瞬、うまく把握できなかった。 眼前の、その菓子を、食べろというのだろうか。この、自らも毒でできたような人間の食べかけを。 毒物の扱いに長けているこの兄は、当然のように自身で効果も調べている。何度か倒れて居るのを見たことがあった。次の日にはケロリと笑って話すものだから、それもなお不気味で。──兄弟の間では、彼は体液は当然のこと、髪の先から爪の先まで余すことなく毒物であるという認識だ。 ──あの指輪はしていない。 視線が自分を透かして後ろに注がれるのを感じた。ダレンを見てるのだと解ると、その後に発せられる最低な言葉の予想をしてしまった。 この場所では誰もイスハークに逆らえない。出来るとしてアンタルだ。けれど自分の従者を守れるのは自分だけなのである。] . (127) 2021/04/22(Thu) 23:19:05 |