【人】 弁当『もりや』 安住 香菜[くるり、爪楊枝が彼の手の中で踊る。 向けられた問いに、一瞬あたしは息を飲んで エプロンの裾をこっそり握りしめるの。 こういう時、どう答えるのがいいのかな。 「お姉さん」なら 「あたしみたいな子なんて早々いないよ」 なんて笑って見せればいいのかな。 それとも、「あなたに気のある女の子」として 「そう、目の前にいるあたしみたいな、ね」 って、そっとウィンクのひとつでもすればいいかな。 でも、あたしにはどれひとつ「正しい」とは 思えなくって、そっと胸の痛みを押し殺す。 結局、あたしは話の後ろから割り込んできた 山田のおじさんに救われる形で その話を結んでしまったの。] (130) 2021/06/05(Sat) 23:06:21 |