【人】 片連理 “椿”——お腹が空きましたわね? [寝室の入口で、椿が声をあげた。 白いマントはリビングで脱いできた。 今の彼女は、袖も裾も長いクラシカルな黒のワンピース姿である。 楓が振り返ったなら、彼女は両手を後ろ手に組んだ姿勢で、ゆるりと首を傾けた。背中まである長い髪が、垂直を保とうと僅かに揺れる。化粧気のない地味な相貌の彼女であったが、唇だけがまるで紅を差したかのように赤くつやめいていた。] 何か、作りましょうか。 冷蔵庫にもちゃんと食材がありましたのよ。 使って良いのよね、きっと。 何かリクエストはあるかしら? [微笑みのかたちに保たれたままの唇で、彼女はそう続けた。“空腹“の語は、彼女にとって文字通りの意味でしかない。]** (141) 2023/03/01(Wed) 19:10:31 |