【人】 視覚喪失 エレノア[思い出したのは昔のことだ。 感覚を捧げて家を出てきたこと。 母に「良い話がある」と告げた自分。 果たして良いことだったのだろうか。 心を病んだ母を置いて、脚の不自由な妹に任せて家を出てきたのは。 いかないで、と妹は泣いていなかったか。 あの家で母と二人きり残されるのは、妹にとって苦痛ではなかったか。 母は何を思っていたのだろう。 あの抜け殻のような瞳で、本当はまた家族に置いて行かれることに絶望したのではないか。 神によって地上が豊かになっても、人の心までは治せないなら。 自分がするべきことは、大金を遺すことではなくて、寄り添うことではなかったか。 遺す相手が生き抜けるかも分からないのなら、尚更。] (146) 2024/08/28(Wed) 9:22:32 |