![]() | 【人】 大富豪 シメオン─ かつてのこと ─ [男の『美』に対する執着は並外れていた。 価値を認めたもの、可能性を秘めたるもの。 その何もかもを欲した。 人を裏切ることも辞さず、たとえ友が愛した人でさえも手に入れた。 それほど『美』に執着した男であったが、それが手に入らないと知るや冷酷なまでの仕打ちを与えた。手に入らぬ『美』など消えてしまえと言わんばかりに。 機会を奪われた者、ここから追われた者、そして──── ある日、男はとある歌姫に執心していた。 彼女の歌は可能性に満ちていて、男にとってその声は天の御使いもかくやと思われた。 だが、彼女は男のものになることを拒んだ。 男の在り方を否定し、男の『美』への執着を否定した。 それから彼女の姿を見たものはいない。 そしてもう一人、表舞台から消えた者がいたが、男がそれを知ることはなかった。**] (163) 2022/11/22(Tue) 17:38:15 |