【人】 学生 涼風>>165 夕凪 「もっと甘えてもいいのにな。頑張っている人は、その分甘えてもいいと思うもの」 真似をするように自分も視線を動かして大きな体の頼もしい彼を見た。自分も後でお手伝いしなきゃなと思いつつ。 もう一度、貴方に視線を戻す。 「ごめん。ごめんね……夕凪姉ちゃん。 でも、私は夢を見ているばかりではいられなくなったんだ」 零れ落ちるのは謝罪の言葉ばかり。 少年のかんばせは作り物のように綺麗な笑顔が乗ったまま。けれど、だらりと下ろされた拳は隠し切れなかった感情を滲ませたようにぎゅっと握られている。 「私は医者を目指さなきゃいけない。 それが父さんの望みだし、仕事として通用するか分からないものを追いかけ続ける勇気が……私にはないんだ」 ああ、貴方と話したかったことは、こんな事じゃなかったのに。 「夢は誰もが見られるけれど、みんながみんな叶えられるわけじゃない。誰もがずっと見られるわけじゃない。 眠る間に見る夢はいつしか覚めるし、心に秘める夢だって……いつか手放さなきゃいけないんだ。 私はもう、夢見る子供じゃいられない」 その言葉はいったい誰に向けて放っているのか。自分にさえも分からないまま。 柄のない刃を握って振り回している気分だ。 手のひらが、心が、焼けるように痛くてたまらない。 (169) 2021/08/12(Thu) 14:03:48 |