【人】 客 葉月-現在の話- [俺がそのドアを開けたとき。 そこには二人がいた。瑛斗と、ゲイザーちゃん。 この店で出来た大事な友達と、この店で出来た──、] 「……そんなハヅキん、なんだもの。 私は、あの人と付き合っちゃいけない」 [心臓に、刃を突き立てられた気分だった。 空いた穴から、どくどくと血が流れてゆく。 何かがうしなわれていくような、感覚。 ──けれど、不思議と痛みはない。 薄々分かっていたことだ。 あの子の表情を変えられたことが、俺はなかった。 いつだってあの子は笑っている。店の中、柔らかなライトに包まれて。 一度きり。泣いていると分かっていても、俺はそれを拭いに行けなかったのだから] (173) 2023/03/07(Tue) 20:02:44 |