人狼物語 三日月国

203 三月うさぎの不思議なテーブル


【人】 役者 セロ

 店先のうさぎに誘われるようにドアを開けると、シンプルだけれども可愛らしい店内に心を奪われる。
 店員に促されるままに席に座り、メニューに目を通す。
 
 お昼、まだだったな……。
 定番らしいパスタセットは量も味も抜群で、そのあたたかな美味しさに荒波のような心が凪いでゆく。
 零れる涙は料理がおいしいからだ。人目も憚らず泣きながらパスタを平らげ食後のデザートが運ばれてくるころには、すっかり機嫌は治ってしまった。

 そんなことがあってから数年、事務所の帰り、仕事に行く前、休みの日、ことあるごとにその店へいくようになった。
 お店のことは事務所にも、担当しているラジオ番組でも言ったことはない。至福のひと時を邪魔されたくはなかった。
 役者として憧れの人や>>25、夢中になって応援していたあの人>>10を見かけたときには心臓が止まるかと思ったけれども。
 
 (声をかけてもいいのかな、でもプライベートできてるんだし……。)

 はたして声をかける勇気はあっただろうか。メニューを見るふりをして、こっそり見ていただけかもしれない。**
(179) 2023/03/01(Wed) 23:18:24