【人】 門を潜り ダヴィード>>176 イレネオ 「ねえ?懐を寒くするおねだりをしておいて恐縮ですが…… いえこの程度で寒くなると思ってる訳ではないんですが」 むにゃむにゃと口の中で言葉にならない言葉を噛み潰す。 貴方が適切なところで歩を止めてくれるものだから、男はそれにすっかり甘えていることに気付けないままここに至ってしまった。 自分にとって都合の悪いことは聞かず、何も知らないまま。 「わっ、も〜…… なんですか、猫じゃないですってば。やめてくださいよ」 楽しそうな声だった。いつぞやの虚勢を作るのをやめ、知り合いに素直に見せる表情は年相応の幼さがまだ残っている。 乱れた髪に手櫛を通して直す間にも、目が合えばきっと笑みを深めただろう。 それは気まぐれな猫が見せる愛嬌とも、可愛がられた犬の習性とも、ただの子どもが優しくされた時とも似ている。 そんなやり取りをしているうちに、頼んだ料理たちがそれぞれに切り分けられて持ち帰り用として出てくるだろう。 紙袋に入られたそれをそっと持ち、貴方を外れのベンチへと促した。 #商店街 (180) 2023/09/11(Mon) 18:22:42 |