【人】 新人クルー ゲイザー>>168 翠眼の★ダビー 言葉を発して数秒。 彼は無言のまま、ボウルと水、それとパン・ド・カンパーニュがテーブルに並べられているのを眺めている為、彼女はそれを固唾を呑んで見守っている。 絶妙な沈黙が不安を更に煽る。 段々と増してく心音に耐えかね適当な話題でも振ろうかと口を開きかけたその時に、目の前の紳士は口を開いた。 …危なかった。もう少しで生まれたての小鹿みたいな震え方をする所だった。 「…て…てへ♡ たまたま目に付いたのが石狩鍋らったんれ…」 照れ隠しか、冗談っぽく頬を掻いてみせる。 なんだか指示の仕方が上司みたいだなぁと思った。お客様なのだが。 とりあえず言われた通りに水に口をつければ、ヒリヒリとしていた舌が幾らか安らいだ。 次いでボウルに手を浸ける。豪快に鍋を掴んだものだから手全体を浸けなければいけない訳なのだが、そうすると火傷をしていない部分まで浸かってしまう。 するとじわじわと無事な部分が冷え、痛みに変わってくる。 「せ、せんせぇ〜…このままじゃ凍傷に…凍傷になっちゃいます〜〜」 ”いい”と言われていないので着けたままにしているが、 痛みを紛らわしたいのか、ゆらゆらと横に揺れている。 …まるで”待て”をさせられてる犬の様だ。 (182) 2021/07/01(Thu) 17:19:49 |