【人】 3年生 黒崎 柚樹[ああ、背が近いって、顔の距離が近いってこと、なんだなあ…………。 見上げる必要も見下ろす必要もないんだな。 そんな愚にも付かないことを思い浮かべながら、私のより余程に優しげな、私のより幾分色素の薄い瞳が近づいて来るのを半ば、ぽかんとした心持ちで受け止めていた。 何しろ慣れてないもので? というか、初めてだったもので? 記念すべき"初めてのキス"は唇が離れる寸前に瞼を漸く閉じたという、体たらく、だった。 あれだけチョコ好きなんだもの、武藤の唇はチョコの味がするんじゃないかなんて、おかしな事をも考えてしまったけれど、チョコの味ではなかったな。 なんだか、ただただ幸せで。 心の底にはいつだって冷たい石がいくつも詰まっていた風だったのに、それが1つ1つ、無くなっていっているような感じがした。] (213) 2022/09/09(Fri) 10:11:20 |