【人】 ??? 工藤美郷──現在・特別展前── 、、、 [工藤さん、あなたのことも。 何気なく朝霞が放った言葉に、女は静かに目を伏せた。] ……ありがとう。 [小さな言葉は、目の前の朝霞にさえ届いたかは分からないけれど。 礼の意味も伝えることなく、それからまた聞く姿勢に戻った。 家族や研究室の皆からの好意は、複数人に向けられていても何ら問題の無い種類のもの。 けれど、「一番」という唯一の順列を、果たして朝霞が持てるのか。それを彼に向けられるのか。 きっと、その思いの差異に対して、彼女はあまりにも敏感で、臆病なのだ。 だから、「そんなことないでしょう?」という言葉が出てくる。] さぁ? それを許さなかったのは、彼ではなくてあなた自身だもの。 その思考の癖が、良いとか悪いとかではなくてね。 [溺れる彼女の感情から息継ぎをするように、俯瞰した物言いをした。 物言わぬ絵でいたのならば、理想の答えも言えたのだろうけれど。 話して動いている以上、女は少しずつ理想からはずれていく。] (222) 2022/09/11(Sun) 10:59:19 |