【人】 1年生 工藤美郷[全ての林檎が、砕けていた。 弾けた果汁は赤黒く、白くぶよぶよとした果肉が巻き散らかされ、薄ピンク色の果汁を纏っていた。 工藤がじっと絵を見ている間に、壁の上部に一本、また一本と線が引かれていき、やがてそれは文字を象った。] WHOSE APPLE WAS CRUSHED? (“誰の林檎が砕けたの?”) [ぽた、ぽた、と、静かな展示室に音が反響する。 それは、文字と絵から糸を引いて垂れた、赤色が滴る音。 むせかえるような生臭い香りが、窓のない展示室にこもっていく。] ……………………。 [工藤は青い顔で、しかし無表情のまま、筆記具を取り出した。 滴る水音と、しゅ、しゅ、とペンの走る音だけが、その空間に広がっていく。]* (253) 2022/09/04(Sun) 21:03:04 |