【人】 1年生 工藤美郷──現在・絵の前── [無言でスケッチを続けていた工藤は、紙面から視線を上げて、ふと手を止めた。 自分のスケッチを、壁面の絵にかざす。] ……………… [壁に飾られた絵。そのなかの、スーツを着た女──明らかに工藤と思われる女は、工藤のスケッチよりも幾ばくか大きい。 ちょうど、絵の中で数歩、こちらに歩み寄ったかのように。] ……………………。 [工藤はかざしていたスケッチを下ろし、視線も壁面からそらすと、自分のスケッチを撫でた。 遠近距離を描き間違えるはずがない。工藤はコミュニケーション能力が乏しい代わりに、見たものを記憶し描きだす能力は並外れて高かった。] (392) 2022/09/05(Mon) 20:28:23 |