【人】 灯守り 芒種── 御手水 ── [ 芒種になって最初の会合も、こうしていたな、と 手洗い場の鏡の前、辛気臭い顔を眺めて思う。 もっともあの時は実際に内臓が出そうな程 ど派手に吐きまくっていたけれど。 慣れぬ酒の加減を誤り気分を悪くした不出来な娘と 若さ故の失敗を寛容に受け止め甲斐甲斐しく支える蛍 なんて老いぼれどもが思い描いた構図は 微塵もアルコールを受け付けなかったわたしの体質によって なかなか愉快な大惨事になったのは 黒歴史でもあり、気に入りの笑い話でもある。 今以上にただのお飾りとして、黙ってにこにこしていろと 命じられるまま、逆らうこともせず、息を殺して過ごした。 次々と知らない相手に挨拶をされ 普段知る顔とは打って変わって愛想よく話す年寄りの後ろで 文字通り、『黙ってにこにこ』し続けていれば 『大人しい子』で『緊張して』いて言葉が出ないのだと 『温かく見守ってやって欲しい』なんて 年寄りどもが庇うふりをして代わりに挨拶をし 勝手に会話に花を咲かせていた。 ] (406) 2022/01/18(Tue) 5:19:50 |