【人】 灯守り 芒種[ 赤子の扱いなんて当然知らない見ず知らずのわたしに おぼつかないあぶなっかしい手つきで抱かれただけで さいしょから、ぴたりと泣き止んだ赤子もまた 正気を疑う訳のわからなさで、気味が悪くて 女性と赤子が正真正銘の母子であると実感できた。 いろんな体液でぐちゃぐちゃな顔を、 この領域では余り見ることが叶わぬ太陽みたいに きらきらと輝かせて眩く笑うその無邪気な笑顔は わたしの影を濃く際立たせるようで、恐怖を覚えた。 どうせ花の名前なら、向日葵にしたらよかったのに。 柔らかな亜麻色の髪をもつ、茉莉と名付けられた女の子は 涎だらけの小さな手をよくわたしに差し伸べてきて 汚いなと、思いながらも、 その熱く湿った手に強く掴まれる気持ち悪さが、 なぜだか不思議と、そんなに嫌じゃなかった。 ……ものを知らないわたしは、わたしの正体を確かめもせず 親切心だけで世話を焼く女性を都合がいいと思いこそすれ 不自然と疑うこともしなかった。 ] (412) 2022/01/18(Tue) 5:53:50 |