【人】 メカニック ゾズマ【1年後:告別式】 [全員集合の同窓会とまではいかなかったこの告別式に、ゾズマはヘアピンの包みとは別の紙封筒を携えてきてもいた。 これは託し物ではなく、純然たる“手紙”だ。 ゾズマは何故この今時に、通信ではなく古風な手紙を用いたのか。それはふたつの理由から。 一つ目。それは決して返信を急ぐものではなかったから。そもそも返信自体、なくても良いものだったから。 今回の事故以降の“彼”の多忙極まる状況を思えば、事務用件でもないメッセージをわざわざ一つ増やすことは躊躇われた。 そして二つ目。端的に言えば“機密の漏洩を防ぐため”。 通信内容を傍受される可能性はゼロではなかった。こういう時、いわゆる“アナログ”は存外に役に立つ――とゾズマは思っている。 万が一開封されたならば一目でわかる開封痕が残るし、便箋一枚だけを収めた薄っぺらい封筒であれば透視スキャナーを掛けられることも通常は無い。余程何かの密輸やテロ計画に対する厳戒態勢が敷かれているなら話は別だが。 といっても、この手紙に直接的に機密事項を記したわけではないので、この理由は、ちょっとした気分の問題でもあったのかもしれない。] (460) 2022/07/24(Sun) 13:29:42 |