【人】 灯守り 立春[雨水さんに初めて鍵を受け渡した日のことは、 もうじき季節がひと巡りしようかという今でも はっきりと昨日のことのように思い出せる。 私の場合は、会合に出席したことはなくとも 一応弟子として蛍の任を経ての就任だったうえに 一年に一度の大役を務めるまでには 夏、秋、それから冬と時間的には余裕があった。 にもかかわらず初めて迎えた立春の季節は あまりのめまぐるしさに右往左往していたから、 初仕事がいきなり雨水本番となれば 雨水さんの苦労は想像するに余りある。 ましてや直前が私だったのだ。 そう、あれは──立春の季節最終日、雨水の前日。 なんとか無事に立春を納められそうだという安心感と 度重なった睡眠不足と疲れでベッドに倒れ込んだ私は、 ほんの少し仮眠するつもりで ふわふわうさぎぬいに顔を埋めた。 あたたかなもこもこの腕に包みこまれる癒しのひととき…… そうして私は、お察しのとおり 健やかに爆睡した。 様子を見に来てくれた氷魚さんに揺り起こされて 目を覚ました時には約束の時間まであと僅かだった。 そのうえ、あろうことか眠っている間に寝床に埋もれて 肝心の鍵が行方不明になっていた。] (461) 2022/01/18(Tue) 19:00:04 |