【人】 XIV『節制』 シトラ[ 何を選んでも、わたしが彼に贈ろうとするものを わたし自身が誰より信用できなくて、 すっかり熱が引いた頃には 渡す機会を完全に見失ってしまった。 初めて彼の姿を見たとき、 わたしを見るその表情に心臓が跳ねた。 わたしが少しでも彼に近付いてしまえば 取り返しのつかない災いが起こる、 そんな怖ろしい予感がした。 ごめんなさい。ごめんなさい。 どれほど謝っても償えるものではない。 たとえ故意ではなく 混乱の中で起こした過失だとしても、 わたしがあなたを この手で殺めたのは 紛うことなき事実なのだから! わたしを見て笑顔を失った彼と時を同じくして わたしも、すっと血の気が引いてゆくのを感じた。] (638) 2022/12/13(Tue) 22:25:12 |