【秘】 文字食う紙魚 蛇神 阿門 → あるがまま 一葉 梢矢>>-11 「そうか」 短い返答。マフラーで首元を埋めて、外に出てもいいようにして。 コンビニで買い込んだ常温のペットボトルを、パーカーのポケットに突っ込んだ。 出かける準備だけはしながらに。 タイマンで会話できる今に、秘密の会話を詰め込んでるんだろう、という気遣いを感じて。 少しだけ、出掛けの準備をゆっくりすることにした。 「お前は誰かに裸を見られたこと、……は、あるか。 なんだろう、そうだな。お前が毛皮のまま風呂に入ってても、多分誰も言わないんだよな。 でも混浴の時の会話、覚えてるか。 水着を着てても、男女で一緒の風呂に入るのはどんなに言葉を重ねても抵抗がある感じだったろ。 俺の秘密っていうのはああいう感じなんだよな。 不気味の谷みたいに、人間に近しいけど異質な、それも体に関する違いがある」 視線はなんとなく下に向いた。意識したわけではなく、問題が頭をもたげるように。 畳敷きとリノリウムの境に腰を下ろして、いつもより低い声が言う。 「お前たちに比べると、俺は半端なんだよ。 コンプレックスをそういう不思議ですごい力で後回しにはできないし、 取り返しのつかないようなものではないし、手術した人もいるって聞いてるくらい。 俺は人間だし、でも、ずっと問題はついてまわる。 みんなの秘密を見るたびに、自分もああして評価されるんだと思うと、嫌だった。 だからこれからも、同じ様に秘密にしていく」 (-26) 2022/02/05(Sat) 7:04:24 |