【秘】 普通 ナツメ → 不運 フカワ「……め、」 メイサイくんとは言ってない……! なんて言葉、すんでのところで押しとどめて。 顔が火照るのが分かって、振り向けないことにひっそり感謝したりしなかったり。 それから、悪いお兄さんの返事。 ぐん、と背中を押す手と、近くなる空。 「あはは、じゃあ……跳んじゃお、かなっ――」 軽やかな笑い声がそう言って。 いちばん雲に近づいたとき、手を離す。 「――――っ」 ふっ、と浮き上がる感覚。 一瞬だけ、時が止まったような。 髪の隙間を風が通り抜けて、 胸元のスカーフがはためく音がした。 少女の体を宙に置いて、ブランコだけが後ろへ戻っていく。 「――――!」 キィ、と一往復ぶんの時間が経てば、重力に従い地面に。 安全柵を越えて、虚無の空間。 着地の勢いで軽く膝を打って、「ぅ〜〜…」と情けない声で呻いた。 (-36) 2022/03/09(Wed) 20:47:58 |