【独】 歌い続ける カンターミネ>>-100 ごつ、ごつ、ごつ。巡回の重いブーツの音がする。 それを履いた茶髪の ウィッグを被った 『ケーサツ』は、あなたの牢の前で止まった。本当なら、もう少し気の利いた声でもかけるつもりだった。 或いはおふざけの気配を纏わせて元気づけるつもりだった。 そこにある光景は、それらを忘れさせるのに充分過ぎた。 今この場にあのイレネオが居たら。もし、牢の中に彼が立っていたなら、間違いなくカンターミネは彼がやったと決めつけて、全力を賭して殺しただろう。 それくらい、その尋問の跡は慣れ親しんだ者にとってはまだ、『甘かった』。だからといって状態に安心する光景ではまったくないが。 鍵束を出す音が聞こえる。内1本が扉に挿される音が聞こえる。 少し古い牢の扉が軋みながら開いて、ごつ、ごつ、ごつ。 近付くにつれて、喉が詰まる。声の代わりにポケットから紙を取り出し広げて見せた。それは犯罪者の移送依頼書だ。 当然、偽造された。 「……、」 用意した言葉が出てこない。覚悟はしていたはずだが、 それでも足りていなかったらしい。 少しの間の無言の後で、やっと声を出した。 「…… ん゛んッ 、ダニエラ・エーコ。お前の隠し持つ情報に関して、より上位の機関による精査を行うべきだとの進言があった。よって、三日月島刑務所までの移送を行う。……。移送車までの私語は厳禁だ。また、……」 少し気取ったような声。それも途切れ途切れに。そして、 「あー、やめた。迎えに来たぜ、お姫様。」 いつもの声でそう告げた。 (-102) shell_memoria 2023/09/28(Thu) 19:01:57 |