![]() | 【独】 摘まれた花 ダニエラ>>-102 頬つけた床を通して、足音が聞こえる。 その足音が牢の前で止まった時、女はその視線だけをそちらへ向けた。 乱視の眼鏡は歪んでしまっては掛けるだけ無駄で。 ぼやけた視界で茶色の髪を一瞥すれば、 その視界でその瞳の色まで判別なんてできるはずもなく またぼんやりと視線を虚空に移していく。…もしかして、またあそこに戻されるのだろうか。 ほんの一瞬そう過ったのは否めない。それだけ好き勝手いったしな、という納得だってそこにはあった。 だから、少しの間無音が続いたのには些か不審を抱いた。 もう一度、視線を向ける。こちらの方から声をかけてやろうかとすら思った頃だ。 視線だけでなく、顔ごとそちらへ向く。 言葉の中身自体は、本当に何一つ頭の中に入ってこなかった。 ただ聞き間違えるはずはないって。それだけ。 「……っ」 がばと起こそうとした身体は軋んであまりいうことを聞かなかった。 それでもその努力くらいはしようとして。 「…………ミネぇ…」 その言葉で決壊した。涙が流れたあとにじんと沁みる。 ――迎えに来てくれた。本当に。 だけど、それがどういう意味を含んでいるか過ぎらない女でもなかった。 ただ、今この瞬間はそれより安堵の方がずっとずっと上回っただけで。 (-104) 2023/09/28(Thu) 20:02:17 |