【見】 一番槍 メサ〜とある路地裏のとある夜〜 ――音がしない。 まるで最初から誰もいなかったかのように嘘みたいな静寂だけがある。 起き上がろうと力を入れると喉を不快な鈍い赤が込みあがってきて眩暈がした。 それでも、なんとか取り落とした武器のところまで這いずり掌に収める。 これの、アイツのお陰で"向かうところ"に敵は無かったんだから。 「……ぁー。ごぼっ……ちくしょ。うごけよ」 掠れた血まじりの声は出せたようだ。 もはや何もしていなくても命が流れ出していくのがわかる。 この言の葉も身を千切って投げるようなもの。 けれど、もう助からない。 冒険者のプライドはそれを認めたがらなくても、 冒険者の勘ははその事実をはっきりと告げている。 このままじっとしていたところで何も変わらない。 どうせ死ぬのなら好きにまっすぐ進もう。 それが"一番槍"で…………。 ↓ (@5) 2021/04/20(Tue) 0:35:32 |