【赤】 鬼の花嫁 千[不屈は意地にも似て、やがて気を立たせてしまう。 その日は一人で山に出た。 夏の過ちの時、自分の世話の為に狩猟に出られなく干し肉だけでは飢えてしまっていた鬼の為、その腹を充分に満たせる新鮮な肉が欲しかった。 山には獣が減っているというが、いつか教わり作れるようになっていた数日前に仕掛けた罠に獲物が掛かっていた。 だが、その小さな命は生きる為に抵抗し千の指を噛む。 その行為につい苛立って、枝草払いの為の鉈を振り上げ────] ……くそ [────そして下ろした。 意味無く命を摘み取ってはならないと論する鬼は、苛立ちから必要以上に獲物を傷つける行為に悲しみを抱くだろう。 今や鬼子にとって、他者の心を想うのは誰かを抉る為ではなく夫を思い遣る為の思考だった。] (*2) 2021/06/30(Wed) 1:38:27 |