【赤】 眼科医 紫川 誠丞[──自分が知り得る限りの情報は、一通り伝えた。 普段と変わりない表情でいながら、得体の知れない緊張感に何処か居心地悪さすら感じる。説明の義務は果たした。この監禁は合意の上だ。そんな言質を取りたい故の言動に思えて、自己嫌悪に陥る。 「信じるよ」と言ってくれた彼に微笑んでみせた。 求めていた肯定的な台詞を得たはずだが、疲労のような安堵が重い。私は彼に何を言って欲しかったのだろう] ……君が大人しく監禁されるとは思わなかった。 嫌われて当然、という気持ちではいたよ。 でも、……そうだな。 もしこの病院が無かったら、私の家か……、 足が付かないように何処かへ連れてくだろうね。 [悪魔の甘言めいた勧誘が、監禁のハードルを下げたのは確かだ。罪はいつか裁かれるし、そうされるべきで。だからこそ犯罪者になれば、いつか彼と引き離される未来を覚悟する。夢はいつか覚めるものだ。 けれど「今」が手に入るなら、詐欺でも構わない。 そう思っている自分の優先順位は明らかだった。 あの病院で入院生活を続けさせていれば、また彼が危うい言動をすれば、遅かれ早かれ彼を攫う選択をするのは想像に難くない。彼の両親の性質を知っていても、自分行いが身内に迷惑を掛けると分かっていても、結局は……] (*7) 2022/05/28(Sat) 8:28:35 |