【赤】 片連理 “椿”[扉の把手に手をかける。 そこで、ひとつ大きく溜息をついた。] 私、どこへも行けないのですね だから、ここなのかもしれない [もう普段の芝居がかった口調はやめていた。 何でもいいから仮面を被っておきたくて現味のない芝居を続けてきたけれど、それはもう、どうでも良かった。] 外に出ても何もなくて 何も選ばないまま、居心地のいい部屋に座っているしかなくて。 [己の無力を恥じる。 どれだけの間、そうしてただ生きてきたのか。 このまま扉を開ければ、きっと死ぬまで同じ無為な日々が続く。そんな気がした。] (*32) 2023/03/06(Mon) 15:14:20 |