【赤】 空虚 タチバナ[上から順にボタンが外れ、 ワイヤーすら入っていない簡素な下着が現れる。 何もかも無気力だったあの頃、 不幸にしてしまった家族から与えられたものだ。 死んだ時の形がそのまま残っているのか パジャマ同様左胸に穴が空き、 左の肩紐は今にもちぎれてしまいそうだった。 問うように彼の名前を呼び、反応を見る。 少し迷うような素振りを見せた後に 鎖骨の辺りまでずり上げることにした。] ……ぜんぶ? [真白く、冷たい肌が露わになる。 心臓の位置にはぽっかり穴が空き、 背中に敷かれたパジャマの白が覗いている。 そのせいか左胸のボリュームは右より劣り、 仰向けなこともあってなだらかなラインを作った。 右もまた決して大きい訳ではないが、 女性らしいふくらみが顔を覗かせている。 その肌が熱を帯びることはない。ないはずだ。 それなのに、彼の眼前に晒された二つの蕾は 淡く色づくように存在を主張していた。] (*38) 2022/08/14(Sun) 23:16:26 |