「お前の召使にか？そいつはお断りだなぁ」

召使は他人に含まれないという。
彼にとってそれだけ"人"とは重みのあるものなのか、と思う。

にしたって、判断基準が召使なのも癪だなぁ？

　「この俺を飼い慣らせるもんならやってみな。
　　不自由のない生活してるおまえにも、
　　不自由なもんができたって爪痕くらいは残してやっからよ」

湯の効能か、会話の影響か、
息の漏れるような微笑をこぼした彼を見る。

生きとし生けるもので温泉が嫌いなやつはいない。
────誰かといる湯も悪くねえな。

大臣と入浴したときは、もっとワビサビがあったと思うのだが。
いま目の前にいる片翼の天使とは、そんな欠片もない。

　「……闘技場に来る奴らはそんなの承知の上だろ。
　　仕方なくリングに立つ奴に配慮してちゃ、闘いにならねえ。
　　なにより、俺がつまらねえ」

そう、俺が他人を無視し、自分だけ楽しい世界にいること。
それが美しい傲慢であると語りながら彼は湯上がる。

片翼でも天使は天使だ。本当にきれいな身体だ。

>>50続き

　「でもサーリフ、おまえとは闘いたくねえな。
　　俺たち一緒に死んじまうから」

もし────こいつが闘技場で目の前に立っていたとして。
今までの俺なら、躊躇わず殴っただろう。

しかし今の俺は"無敗"なのだ。
天使を死ぬまでボコってしまう。
そうしたら俺は地獄の果てへ消滅する。



やろうと思えばできた。
ただ生前それをしなかっただけ。


　「勝ち負け、生き死に、何もハッキリしねえクソ試合だ」

　「そんな中でも大事なものがあるってのかよ、おまえは」

■ドラマシーン　秘密取得
■相手：アルバリ
■場　所：温泉※任意可

成否判定：(4)(2)^2d6

　
　

　「うるせえな。
　　おまえ本当は知ってるくせに。

　　

　　それをぶっ叩きてえから
　　この気持ちをうやむやにしたくねえから
　　闘技場で毎日毎日思い出してんだ」

強さを求めるのは────空っぽな己の弱さの裏返し。
見ないふりはしていても腹立たしい。

湯船から上がる。サーリフの手は取らない。

　「死は必ず生で返す、それが俺の流儀。
　　忘れてしまうほど俺は煉獄に浸かりきっちゃいねえ」

最後に風呂を出る前、シャワーで桶に溜めた湯を自分にかける。
底知れず笑う天使の顔にも、手荒だがついでに浴びせた。