人狼物語 三日月国


87 【身内】時数えの田舎村【R18G】

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視点:


【恋】 おかえり 御山洗

掴んだ手首は細くて、簡単に指が回った。沈んでいく景色は上下左右の区別もなく青い。
息をしようともがいたけれど、少しも苦しくはなかった。見えない水面が遠ざかるのがわかる。
喧騒もなにもかも遠くなって、口から吐き出した泡の音も聞こえないのに、呼び声はよく聴こえた。
名前を呼ばれる。ふわふわと舞う髪は、時々目元を覆ってくすぐったそうだった。
耳に届く音がやけにくすぐったくて、背筋がぞわぞわとする。
腕が回って、首の後ろで組まれた指が垂れ下がった。襟足をたどる指はなめらかだ。
返す名前を呼びたくて、声が出ない。喉につかえて、空気が出てこないようだった。
代わりに口から出る泡が、どんどんと水面にのぼっていく。
体は海の色の濃く黒い方へと沈んでいって、吸う酸素もないのに。
変だ、と感知するより早く、唇が頬骨に触れ、骨に添って、頬に触れる。
心臓に火がついたようにあつくて気が狂れてしまいそうだった。
どうして、とか疑念が湧くたびに、そわついた高揚に炙られて灼けてしまう。
触れたい。声が聞きたい。抱きしめて、引きずり下ろしてしまいたい。
どんなつもりで、何を思っているのか、問いただす時間さえ惜しい。
ガソリンに火を近づけたように耳の骨まで熱くなるのを感じる。
はだかの腕に応えるように腕を回して抱えてしまって、首筋に唇を寄せた。
大して気を使った食事もしていないんだろう首筋は骨が見てとれた。
ぬるいような涼しいような水の中で、互いの肌ばかりが熱を持っている。
辿って、手繰って、触れるたびに体の作りの違いを感じる。
細い体は力を加えたら隙間から風のように逃げてしまうんじゃないかって、怖い。
(?0) redhaguki 2021/08/15(Sun) 0:48:22

【恋】 おかえり 御山洗

いつからだったんだろう。かつてはまだ三人でいることに違和感はなくて、だから、最初からではない。
でもいつしか三人でいても、自分は二人とは違うことはわかり始めていた。
境遇も。性格も。遊び方も。抱えている気持ちも。
いつか触れたいと思って、手をのばしたことはあった。
でもそれが届く前に呼ぶ声が聴こえて、それで指先はそれてしまった。
それで納得したように諦めきれてしまった。
俺はお前の隣りにいるわけじゃないから。お前は隣りに違うひとを置くから。
同じ位置に立っているわけじゃない。俺とお前は同じ世界にはいないから。

でも、なのに。ああ、だから、これはきっと夢だ。
都合のいい夢で。海の底に沈んでいくだけの悲哀だ。
どうせそれが実を結ぶことのない、つごうのいい願望だ。
だけど。紛い物は、同じ顔をして、同じ声で呼ぶんだ。
(?1) redhaguki 2021/08/15(Sun) 0:55:31

【恋】 おかえり 御山洗

水の中に溶けていく感触はゆらゆらとして不安定で。
握りしめていなければそれが熱を持つ人間だとはわからないみたいだ。
体を構成するひとつひとつを辿って。指の節がしっかりしていること、
腕は細いけど楽器を扱うぶん案外しっかりとしていること、代わりに足の頼りないこと。
腹のなかにちゃんと臓器が入ってるのかあやしくて、触れると骨にあたること。
体の何もかもを腕の中に収めて掻き抱く。くすぐったそうに笑う声が耳に籠もる。
リフレインする響きだけで腹の内側がぞくぞくとして、耐えられないほど苦しい。
目隠しでパズルをしているみたいにあちこちに指を這わせて、まるで骨の継ぎ目を確かめるみたいだ。
名前を呼ばれる声は唄うように柔らかくて、ああ、でも、聴いたことのない声だ。
ならこれは望みなんだろうか。なら、きっと叶わないことなんだろう。
でも、こうして。手が届く。跳ねる声が、恥じるように笑う声が。
夢なんだろうか。欲望なんだろうか。ただ、俺が願っているだけなんだろうか。
そう紡いでほしいと、そう思っているだけなんだろうか。
熱っぽい目元も、束を外れて顔に落ちる髪の柔らかさも。はっきりとした白目も。
そんなものは知らない、見たことはない。そんな日は来ない。
そんな日は来ない。
そんな日は来ない。
わかっていても、望みが拍車を掛けてより鮮明になる。
触れられる感触も、熱っぽい吐息も。触れた時の湿潤も。
知らないものは全て俺が自分の中に作り出した偶像なのに。
そんなふうに優しく、微笑んでくれるのか。
どうか、許されたい。
許してもらえるんだろうか。
お前に、許されるんだろうか。
(?2) redhaguki 2021/08/15(Sun) 1:09:04

【置】 おかえり 御山洗

がば、と体を起こす。汗だくの顎から伝った汗が布団にぱたと落ちた。
頭が痛む。汗のかきすぎだろうか。夏の暑さが皮膚を締め上げるようだ。
流れ落ちていく汗の感覚を意識が追って、時間を掛けて夢と現実が選り分けられていく。
深呼吸して喉を通る息の冷たさが、まるで水を流し込んだかのように思える。

「……」

張り付いたシャツを引き剥がして空気の通り道を作る。腹が冷えそうだ。
腕に触れ、肘の内側に触れ、皮膚と手の平の間の空気を追い出すようにぎゅうと握りしめた。
恐れている。怖がっている。何より自分が、いやになる。
自分がいる場所はここではない。もう、ここに自分の居場所なんてのはないのだ。
帰ってきてよかった。帰って来なければよかった。全部、そのまま忘れてしまえばよかった。
(L1) redhaguki 2021/08/15(Sun) 1:15:43
公開: 2021/08/15(Sun) 1:15:00
御山洗は、怯えている。
(a0) redhaguki 2021/08/15(Sun) 1:15:51

【神】 おかえり 御山洗

>>G1 鬼走/三日目 夜の河原

明日は祭りもある。昼頃から屋台が建ちはじめて、みな明るい顔をしているだろう。
そこで煮えきらない顔をしていては訝しまれる。こくりと、頷いて承諾はした。

買いかぶりすぎだと言われても、御山洗にとって鬼走は信頼できるひとだった。
ずっと昔から自分たちや他の子供達を見てきてくれた、まだ大人でも子供でもなかった人。
集落を離れてしまうその時まで、ずっと迷惑を掛けもしたし、世話になった。
もっと年の離れた大人達よりも話しやすいこと、接しやすいと思うことはたくさんあった。
心の中に抱えた不安。忌避するもの。恐怖の理由。
長い沈黙のあとに、ふ、と気が緩んだように、小さな声を河辺の岩に染み込ませる。
それは只々の些細なことではなく、今までの何もかもを壊す大きな刃だ。

「……俺は、ずっと、」
(G4) redhaguki 2021/08/15(Sun) 12:08:07

【秘】 おかえり 御山洗 → 巡査部長 鬼走

「翔のことが好きだったんです」
(-41) redhaguki 2021/08/15(Sun) 12:09:09

【人】 おかえり 御山洗

「……」

まだ昨日の内から気の晴れないまま。海の記憶が残ったまま。
幸いにして家の中に昔の浴衣はあって、幅は調整すれば着れそうだった。
着れそうだな、というところまで確認したのに、まだ袖は通していない。
蒸し暑く射す太陽を受けながら、玄関先の縁台に座ってぼんやりとしている。

みんなお祭りに行っている頃だから、ぼんやりとしているのを誰かに見られることはないだろう。
もう少し、あと少し。気分が晴れてから向かえばいいだけだ。
(15) redhaguki 2021/08/15(Sun) 17:43:56

【置】 おかえり 御山洗

帰ってきてよかった。
帰ってこなければよかった。
それはどちらも嘘偽りのない心だ。
楽しかった思い出を、暖かかった思い出を。
子供の自分が守ろうとしたものを、掻き回しているのは俺だ。
誰にも暴かれることのなかった不発弾を、揺り動かしてせせら笑うのが俺だ。
ずっと、いつからだっただろう。もう遠くなった夏の頃からずっと抱えている。
恐れ、怯え、震えている。誰にも悟られなければいいと思った。
まだ保身ばかりを考えていた頃の自分はもう少しだけ演技が上手かったのに。
優しい風と暖かい日差しが、懐かしさで腕を降ろさせる。
どうせ、抱えていても意味のないものなら、捨ててしまえればいいのに。
(L9) redhaguki 2021/08/15(Sun) 18:48:01
公開: 2021/08/15(Sun) 18:45:00

【人】 おかえり 御山洗

>>23 宵闇

「、えっ」

完全に虚を突かれたらしく素っ頓狂な声が上がった。首を動かしたのと相俟って声は振れる。
ぱちぱちと目を瞬かせて見上げて、逆光を受けているのが誰であるかを見た。
そういえばもうそんな時間で、昼間から出店も開き始めているのだ。

「え、あー……俺、まだ浴衣着てないから。
 ちょっと待ってて、いや、待たなくていいや、他の人呼んできてて大丈夫だから」

慌てたように立ち上がって家の中へと入っていく。
鍵どころか田舎らしい引き戸の扉も半開きのままだ。
(25) redhaguki 2021/08/15(Sun) 19:04:30

【恋】 おかえり 御山洗

見上げた笑顔は太陽を背にしていて、黒髪の輪郭が光って浮いていて。
ああ、綺麗だなと思った。固まってしまわないうちに動けてよかった。
すぐに引っ込んでしまわなかったら、不自然にも程がある。
このまま出ていかなければ瑠夏なり誰なりを連れて祭りに行くだろう。
そうであってくれ。期待したくはない、何も。
どうせ振り払われるなら、手を差し伸べないでくれと。
願ったところで、何か得体のしれない運命が叶えてくれるわけじゃない。
(?3) redhaguki 2021/08/15(Sun) 19:20:03

【神】 おかえり 御山洗

>>G13 添木/三日目 添木邸

それはそうだ。喉で笑うように返す。
布団と共に出てきた埃をなるべく払って部屋に残らないようにする。
まとめて掃き出す方が効率的だけど、目に見えてきれいになる方がやる気は出る。
さんさんとさす太陽に今日も一日天気がよさそうだと目を細めた。

「みんながみんな久さんみたいにカラッとしてたらいいんだけどね。
 ……俺は、そうだな。高校卒業してすぐ出ていっただろ。それからちょうど10年でさ。
 なんとなく、なんだろうな。一度様子を見に行ってもいいかなと思ったんだ」

きっかけはなんだっただろう。ふともうそんなに時間が経ったんだと思い出して、
一度そういう気がかりが出来てしまうと頭の中から抜けていくのは難しくて。
思い悩むくらいなら、一度行動して、それですっぱりやめてしまうのがいいと。
それをどこまで明るく噛み砕こうか考えながら、香りのいいスイーツをスプーンでつつく。

「結構こういうの作るんだ? なんか意外だな」
(G18) redhaguki 2021/08/15(Sun) 20:10:08

【人】 おかえり 御山洗

>>34 宵闇

『御山洗』は父方の姓だ。今はこの家には父親の方の家族が住んでいる。
祖父や祖母がどうなったかは御山洗は聞いていないけれど、少なくとも父親は生きている。
――はずだ。
家の中からはほかの誰の気配もなく、足音や生活感もなかった。
しんと静まり返っている家の中に、一体誰がいるというのだろう?
(36) redhaguki 2021/08/15(Sun) 20:17:34

【神】 おかえり 御山洗

>>G23 添木/三日目 添木邸

「はは、大丈夫だよ。俺はいっつも食べてるから……試作品だったりそうじゃなくても勉強会とか。
 食べすぎてその分筋トレして回さなきゃと思ったくらいだし。
 そういう意味だと、いつか店に来てくれると嬉しいかもな、そんなに有名ってわけじゃないけどさ」

大衆向けではあるけれどそれなりにちゃんとした店、立地のところで働いているから、
用途は選ばず入れるだろう。身内だという言葉には素直に嬉しそうな表情を見せた。
何の衒いもない、まっすぐな気持ちだ。後ろめたく思うような素振りはどこにもない。

「変わんないな、って感じかな。でも寂れたわけじゃなくて、昔と同じ活気があって。
 ああ、あの時のまま、誰かがここを残そうと頑張ってるんだなって……少しうれしくなった。
 もし状況が良ければそう遠くないうちに越してきて、店でも開こうかなと思ってたくらい。
 
 そうか……仕事が仕事だと、色々あるんだな。
 俺はむしろ流行りのこととかちゃんとリサーチしてないとダメで、積極的に外に出ろって言われて。
 意識の変化とかもあったし、昔とは少し変わったかな」

添木の記憶の中の御山洗はそんなに主張のない子供だった。
その分誰かの助けや世話に回っていたけれど、やはり年下の子どもたちに人気があるのは別の者だった。
集団の中で目立った様子もなく、瑠夏や翔の輝きに霞んでる、印象の薄い人間だっただろう。
(G27) redhaguki 2021/08/15(Sun) 21:52:22

【人】 おかえり 御山洗

>>43 宵闇

蝉の声が雨のように注いで、時折吹く風が青草をぱたぱたと騒がせる。
それなりに時間が経ったのに、まだ玄関先にも縁側にも、顔を見せる様子はない。
誰か他に遊ぶ人間を見つけて、そっちへ興味を寄せてしまうほうが建設的かもしれない。
貴方は、宵闇は。御山洗が約束を破ったことはないと知っている。
(47) redhaguki 2021/08/15(Sun) 22:05:46
御山洗は、恐れている。怯えている。……一体何に?
(a15) redhaguki 2021/08/15(Sun) 22:14:45

【神】 おかえり 御山洗

>>G29 添木/三日目 添木邸

ここ、とサイトをスマートフォンで出して見せる。シックで洒落たテイストだ。
レビューサイトなんかで確認してみれば、夜の予算は4,5000円くらいになるだろう。
チープなわけでもなく気取りすぎてもいなく、ちゃんとした店、といった風だ。

「俺も、10年ぶりだったから……ちゃんときれいに残ってて、よかったなと思った。
 あんまり大手を振って出ていったわけじゃなかったろ。だから、今どうなってるのかも聞いてなくて」

母に連れられ、こっそりと村を出ていったのは10年前。誰にも連絡はとっていなかった。
能動的な雪子達だけが時々顔を見せに来て、其れ以外には何も。
梨にさくさくとスプーンをいれて、ふと前髪に触れる手に不思議そうに顔を上げた。
食べづらそうに見えたのかな、なんて思いながら。

「うん。今は……向こうで。楽しくやってるよ」
(G33) redhaguki 2021/08/15(Sun) 22:28:45

【神】 おかえり 御山洗

>>G35 添木/三日目 添木邸

「イタリアンが主だけど、それに限らないかな。値を張って食べようとすればもうちょいこれくらい。
 カジュアルすぎないけど、でも気軽に来れるように……たまに仕事してる人もいる」

例えば仕事帰りの一人客なこれだけ。デートで奮発したい人はもう2,3000円は乗るだろう。
オフィス街からでも寄れる場所の、誰かの憩いの場所。スペースは広く、式の二次会も。
誰かの人生に、思い出に寄り添えるような――そんな場所だ。

「……そうだね。もしもここにいられるなら、きっとそれがいい。
 でも。俺は……もう少しだけ考えてみてから、かな。……なんてね」

少しだけごまかすようなかすかな光のちらつきは、出てこずに済んだろうか。
逗まるにしてもやめておくにしても、それはあくまでこの場限りの冗談、
そうとでも言うように肩をすくめる。残りのひとくちを、口の中に収めた。

「学生たち、海にいくってさ。久さんはどうする?」
(G40) redhaguki 2021/08/15(Sun) 23:54:58

【人】 おかえり 御山洗

>>50 宵闇

玄関に入り、部屋を探し。いつだったか上がった家はすぐに居場所もわかるだろう。
扉を開ける音、廊下を歩く音。それに気づくのは一歩遅れたらしい。
私室の扉を咄嗟に押さえようと思って立ち上がり踏み出したところで、
扉を開けた貴方と対面することになるのだろう。

「――」

言い訳も咄嗟に出てこない御山洗は、先と同じ格好だった。
これだけ時間を掛けても、まるで最初から出向く気がなかったかのように。
(55) redhaguki 2021/08/16(Mon) 1:32:42

【神】 おかえり 御山洗

>>G43 鬼走/三日目夜 河原

首を横に振る。これは、こればかりは。
思い出を壊しているのは自分で、それはみんなにも自分にも背くことだから。
もっと清和のような思い切りがあれば、或いは宵闇のような切り替えがあれば。
そう決断しきってしまうには、かつての少年も今の青年も、至らなさすぎた。

「雅也さんが? ……意外だな、と、なんて言ったらいいか、わからないけれど。
 ……俺はね、ここに来なければこのまま忘れられてたんじゃないかと思うんです。
 それなのに足を踏み入れてしまったのは、俺の責任で、俺がバカだからだ」

このまま有耶無耶にしてしまえば、きっともう10年もしたら何事もなく軌道に乗れた。
只々の普通の人生に、この場所の思い出を遠いものにしていられた。
なのに。御山洗は、帰ってきてしまった。懐かしくて、優しい場所に。

「……すみません。でも、少し楽に……なった気がします。ありがとうございました」
(G50) redhaguki 2021/08/16(Mon) 1:45:04

【神】 おかえり 御山洗

>>G43 添木/三日目 添木邸

しばらくは自分の職場の話を。こういう使い方をするお客さんもいる。
こういうこだわりがあるらしい。こういう工夫を少し取り入れてもらえて、嬉しかった。
貴方が言うように、今の生活に何もかも満足ではなくても、報われるものがあり、誇らしいと。
村に居た少年の面影よりも、少しばかり大人びた低い声が言う。

「うん、もう少し手伝いしたら様子見に行こうかと思うよ。
 また雅也さんとか夕ちゃんとかが早くに行ってるらしいし、心配はないと思うけど」

ごちそうさま、とちゃんと手を合わせて。流しまで食器を持っていってから。
元の部屋へと戻って片付けを再開しようとしたところで、壁に突き当たったみたいに足をとめる。

「……本当に、ここに帰ってきたらうまくやっていけると思う?」
(G51) redhaguki 2021/08/16(Mon) 1:54:10

【人】 おかえり 御山洗

>>60 宵闇

「、ま、だ」

遅まきに言い訳を講じようとしたのだろう喉はつかえて言葉を吐き出せなかった。
隠し事、後ろめたいことをしていたのだということを少しも隠し立てしない、できない。
近づいてくる宵闇とは反対に、部屋の奥へとふらつくような足取りで下がっていく。
みるみる内に顔色をなくして、唇は震え指はこごえていた。
追い詰められた獣のように遅い足取りで、とうとう部屋の壁に背中がついた。
(64) redhaguki 2021/08/16(Mon) 7:22:36

【人】 おかえり 御山洗

>>66 宵闇

「行く、つもりは……ないわけじゃ、ない、けど」

すぐ間近に見下ろした顔を見てまた怯えたように顎を引いた。これ以上逃げる場所がない。後ずさろうとした肘が壁にぶつかって擦れる。痛みを感じない。
夏の盛りだというのにやけに冷えて感じる空気が喉を凍りつかせていくばかりだ。

「俺は、別に。後からでも、みんなで、行けば、」

うまく言葉が出てこなかった。自分は何を言い訳したいのだろうか。何を申し訳なく思って、何に後ろめたさを感じているのか。思考がごちゃ混ぜになる。
怯えている。恐れている。全部が全部壊れそうな思いだ。
見下ろした目の中に鏡のように映り込んだ背の高い男の表情は、罪の重さに耐えられないような顔だ。

「来なければよかった、帰ってれば」

そのまま踵を返してどこかに行ってしまうことを願っていたのに。じっと黙り込んでいれば、そのまま別のところに行くだろうとそう思っていたのに。夢の中の景色と重なって息を呑む。苦しさで瞼の裏の景色が滲んできた。

「俺は、」

思い出を壊したくなかった。壊すのは自分自身だ。
思い出を汚したくなかった。忘れ去るままでいたかった。

「俺は、」

息ができないほど焼き付いた胸が、楽になろうと自白しかける。
ずっと隠していた罪悪は、紐解くつもりなんて一度もなかった。
10年も昔から。子供だった時分から。
どうして今、思い出してしまったのか、帰ってこなければよかった。

(68) redhaguki 2021/08/16(Mon) 11:30:11

【置】 おかえり 御山洗

>>66 宵闇



ーーお前よっぽど俺のこと好きなのかい

ーーバカ。冗談言うなって




(L14) redhaguki 2021/08/16(Mon) 11:30:24
公開: 2021/08/16(Mon) 11:30:00
御山洗は、恐れている。怯えている。思い出を壊す自分自身の心に。
(a23) redhaguki 2021/08/16(Mon) 11:31:03

【人】 おかえり 御山洗

>>66 宵闇










          
「お前のことが好きだったんだ」











(69) redhaguki 2021/08/16(Mon) 11:31:32

【人】 さよなら 御山洗

>>66 宵闇

掠れるような声でそう吐き出して。伸ばしてたが肩を押して遠ざけた。
苦痛を堪えるように目を伏せる。焼けた髪の色より幾分濃い色の睫毛が視界を閉ざした。
首を横に振る。力は強かった。そのまま、腕を伸ばしても届かないくらいに距離を空ける。

「……ごめん。祭りには、一人で行ってくれ。
 瑠夏とか百千鳥とか、みんな待ってるだろ。
 俺は一緒に行かない。行けない。だから、一人で行ってくれ」

言うつもりはなかった。言うべきことではなかった。
ずっと、いつだったか、子供の自分が口を閉ざして隠していたものを、自分が壊してしまった。
御山洗は恐れていた、怯えていた。自分にとって大事な思い出を壊すこと。
御山洗はこの場所に帰ってくるまで思い出の中にしまっていられた、焦がれるほどそばに置かずにいられた。
なのに、帰ってきてしまったから。思い出のままにしておきたかった全てを掘り起こしてしまった。
口にすれば全てを終わらせてしまうのをわかっていた。
いつかの三人組ではいられなくなることを、わかっていた。

「……今までありがとう」

だから、これは、決別だ。
(70) redhaguki 2021/08/16(Mon) 11:32:23

【神】 さよなら 御山洗

>>G58 鬼走/三日目夜 河原

「大丈夫ですよ、伝わってますって。みんな、雅也さんのこと慕ってるし、大好きですよ。じゃなかったらこんなに頼りにされない。
 意外だと思ったのは、雅也さんは……もっと思い切り良く行けって、いうかと思って」

自分には勇気が出なかった、10年前も今も。思い出の中にしまったものをーー三人の時間をきれいなままにしておきたかった。
踏み出すか踏み出さないか、どっちにしたって後悔するなら、閉じ込めておくのを自分は選んだから。

「……俺のことはともかくとして、やっぱり学生たちには祭りを楽しんでほしいですから。
 明日くらいはせめて、ちゃんとしないと……なんて、出店の手伝いできるわけでもないですけど。
 結局河原のサワガニも水道水で元気にさせてるままだし」

今はまだ振り切れず、踏み出しきれないのでも。誰かの笑顔を翳らせるようなことはしたくない。
膝についた手に力を入れて立ち上がる。ここいらのゴミを入れた袋を片手に下げて、最初に手渡してしまった分を返してもらおうと手を広げる。
鬼走に話したことで、ひとまず今は気が楽になったようだった。

「集落に戻りましょうか、雅也さん。明日もきっと早いですよ」
(G60) redhaguki 2021/08/16(Mon) 12:19:41

【人】 さよなら 御山洗

>>72 >>73 >>74 宵闇

「……ひどいやつだな、お前は……」

喉の奥からほとんどつっかえて出てこないような涙声が、ようやく震えながら音を成す。
なぜかだなんて。克明に思い出さずに済んだなら、この想いを風化できたからだ。
どうしてかだなんて。そんな気持ちを抱いたところで叶うわけが無いのを理解してるからだ。

目の前の彼が思うよりもずっと不届でみっともない願いを抱えて、
唄うような声もはしゃいでる声もとぼけたような声も、
長い前髪から覗く目もろくに体を作れるものを食べてないような細さも、
全部どうしようもなくこの手に掻き抱いてしまいたくて、そんなのは、お前には向けるべきじゃない。
"友達"だと言うのなら、こんな不自然な気持ちは最初から持つべきじゃなかったからだ。
抑えられないくらい好きな自分が、夢に見るくらいに好きな自分が、
自分では制御できない怪物になったようで、自分から思い出を守れないのが、恐ろしかったからだ。

宵闇の思いと御山洗の想いは全く違っていて、それはどちらも両立することは出来ない。

「俺は……」

首を横に振る。同じ思いを、抱けなかった。
ここにいたら、綺麗なまま額に入れてとっておきたかった大事なことを壊してしまう。
此処には居られない。いてはいけない。思い出に触れないまま、しまっておきたいと願う。
帰ってよかったと思う気持ちより、帰ってこなければよかったと後悔する愚か者は、
永劫の花園にはいられない――帰りたくないなどと、思えない。
このままでいることにも、ここままでいられないことにも、何もかも耐えられなかった。

(76) redhaguki 2021/08/16(Mon) 20:14:32

【人】 さよなら 御山洗

>>72 >>73 >>74 宵闇

遠ざかる足音を聞いている。
そのうちに、力が抜けてずるずると落ちていくように壁に背を凭れて崩れ落ちた。
声を抑える。息を止める。言うことを聞いてくれない瞼を指で押さえて。
出ていく宵闇に、すすり泣く声が聴こえていないようにと、蹲って祈った。
蝉の声が遠く遠くに聴こえる。
(77) redhaguki 2021/08/16(Mon) 20:14:40

【神】 さよなら 御山洗

>>G61 添木/三日目 添木邸

ほとんど去り際の問いは、半身返しきらないくらいの背中で聞いていた。
だから、添木には御山洗の表情はよく見えなかっただろう。
それでも広い背中はいい加減見慣れたものではあっただろうけど。
考え込むような間の後に、息だけで微笑むような声がした。

「……久さんは、格好いいな。きっとさ、みんな久さんのこと憧れだって思うよ。
 悪戯をしたことだってみんな知ってるけど、そういうところも誰かの思い出になって。
 誰かが見上げる、そういう背中になると思う」

感慨深いような声音は心の底から出たものなのだろう。
しみじみとそうした良い光景というのを思い描いて、もう一歩ずつ踏み出して廊下へ出る。
カンカンとサンダルを突っかけて玄関をくぐる、当たり前の日常の音は遠く。

「ごちそうさま。久さんも、時間があったら海においでね」
(G75) redhaguki 2021/08/16(Mon) 20:28:54

【神】 さよなら 御山洗

>>G69 鬼走/三日目夜 河原

「そうですね。……きっとこのまま、何もなしにやり過ごせたら一番いい。
 今まで、そうしてこれたんだから。きっと昔の俺も、そうしてほしいって言うだろうし」

決して勇気が出ないばかりではなかった。もしもそうなら、出ていくときに明かして二度と来なかった。
今の今まで引きずるくらいには――大事だったからだ。自分の気持ちより、誰かの思い出が。
何より自分が、三人で過ごした時間をきれいな形で残してきたかったから。

「そう……だなあ。あんまり見くびっちゃいけないですね。
 あの子達だって、だれかのことをよく見てるんだから――」

いつかの自分たちも同じだったのだろうか。
子供を、大人を。自分よりも小さな存在を、大きな存在を、隣り合う人々を。
月に照らされて昼のように明るい砂利道を、さくさくとサンダルが踏んで離れていく。
(G76) redhaguki 2021/08/16(Mon) 20:42:51

【置】 さよなら 御山洗

「――……ああ」

バカだ、と。やってしまったな、と思った。
今まで自分が大事にしてきたものは、この手で壊してしまった。
今までひた隠しにしてきたものは、この手で暴いてしまった。
思い出は浅ましい思い出塗りつぶされて、曇ってよく見えない。
これが、自分の望んでいた"夢"なんだろうか。
もしもそうなら、とんでもなく悍しい悪夢だ。
それでも俺は、翔のことが。

「……本当に、バカだ……」
(L18) redhaguki 2021/08/16(Mon) 20:53:30
公開: 2021/08/16(Mon) 20:55:00