人狼物語 三日月国


246 幾星霜のメモワール

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【秘】 白昼夢 ファリエ → 聖女 リッカ

「っ……リッカぁ…………」


堰を切ったようにあなたが触れたところから一滴、また一滴と涙があふれだした。
感情が坂道を転がり始めたらもう簡単には止められなくて、子供のように声をあげて泣き始める。
だけど悲しいばかりじゃない。
刺すような寒さはあっという間に置いてきぼりにしてしまって、暖かさだけが感じられる。
この止めどなく湧き出すきもちはきっと、大切なものだとわかる。

霞む視界のなかであなたと視線が交わった────次の瞬間。
ファリエはあなたを思いきり抱き締めた。
(-15) shionsou 2024/02/12(Mon) 20:28:48

【秘】 白昼夢 ファリエ → 聖女 リッカ

「本当にここに居るんだ……っ!
 リッカは、ずっと、ずうっと傍に居たんだよね……っ!」

確かめるように何度もちいさな体にぎゅうとちからを籠めて触れる。
夢なんかじゃない。これが現実だと、世界に溶けないあなたを独り占めにしていた。

「記憶を取り戻してからね……全部悪い夢なんじゃないかって思ってた。
 覚めない悪夢の中で迷子になったみたいで。
 だからあなたも、本当は私が助けを求めて夢見た幻なんじゃないかって……怖かったんだよっ」

ぼろぼろと涙は零れてあなたの肩を濡らした。
震える唇から紡がれる言葉は地面に吸い込まれる代わりにあなたに届く。
こんな芸当もできる聖女は紛うことなく元凶であるのだけれど。
それでもファリエにとってはずっと欲しかったもの。
女の欲しかったものにはもう手が届かない。
どちらもが本当に欲しかったもので。
どちらも、もう二度と手に入らないと思っていたもの。

これが最後だと思っていたのはお相子だったのだ。
痣が光っても光らなくても、曖昧な関係は続けられない。
夢から目を覚まさなくてはいけないと。
届かないものに手を伸ばすのは子供だけだと。
あの日置いてきぼりにしてしまったファリエに言い聞かせ続けていたのに。
(-16) shionsou 2024/02/12(Mon) 20:29:23

【秘】 白昼夢 ファリエ → 聖女 リッカ

「私も…
ふへっ
、ちゃんとこの世界に居るんだね」

くしゃくしゃになった顔で、宝物を掘り当てたみたいに嬉しそうに笑うと変な声まで出てしまう。
あの日でさえこんなにならなかったような気がする。
今はそれを恥ずかしいとも思わなかった。

「私はひとりぼっちじゃないって、思っても」
「リッカも、ひとりばっちじゃないって、思っても」

「いい、のかなぁ……っ」
(-17) shionsou 2024/02/12(Mon) 20:31:56

【秘】 白昼夢 ファリエ → 聖女 リッカ


幼き日。
天上を飾る星々は見果てぬ夢の終着駅のように見えていた。
星に願いをかけるように。祈るように。
『あの星みたいになれますように』と、助けを求めていた。

だから数多の星を束ねたようなあなたの煌めきは、御使いのようにすら思えたものだ。
それもあながち間違いで無かったのだと今になって思う。
少し身を引いて顔を突き合わせてみれば、その瞳は無邪気な子供のそれで。
そこに宿るのは、愛されたいという思いよりも純粋で無垢な愛したいという思いなのだと気づけた。


そんなあなたを映す私の瞳は。
あなたの星になれるだろうか?
(-18) shionsou 2024/02/12(Mon) 20:33:16
ファリエは、ずっと真昼に輝く星を夢に見ていた。
(c2) shionsou 2024/02/12(Mon) 20:34:08

ファリエは、ずっと醒めながらに夢を見ていた。
(c3) shionsou 2024/02/12(Mon) 20:36:17

ファリエは、ずっと  を見たかった。
(c4) shionsou 2024/02/12(Mon) 20:40:40

【秘】 聖女 リッカ → 白昼夢 ファリエ


小さく華奢な子どもの身体。
これが日頃通りならば、するりとあなたはただ手を搔いただけ。
聖女に触れることは、叶わない。
それも、また。聖女が、そう望んでいたあかし。

 
それは、傷つくことを避けた結果であり、
惜しむことを恐れた結果でもあった。

何年も、何十年も、何百年もこうしてきた中、
経てきた経験が、聖女を、そうたらしめていたのだけれども。


(-23) oO832mk 2024/02/12(Mon) 23:36:10

【秘】 聖女 リッカ → 白昼夢 ファリエ


夜空に冷えた頬に、そんな手が触れている。
それが直後には、あなたの腕が伸びてきて―――空を掻くこともなく、抱き竦められれば。
驚きに開いた目の色は、晴れた冬の寒空と同じ淡い蒼。

……思いも、していなかったのだ。
だからそのまま、暫し言葉も失って。


 ( ……――― )


確かめるみたいに、ぎゅうと抱き締められたまま。
濡れる肩が冷たいだなんて思うよりずっと先に、あなたの体温ぬくもりを肌が感じている。

――――――何年、何十年、何百年ぶりの、それは。
記憶の中のものよりずっと。 ……ずっと。

(-24) oO832mk 2024/02/12(Mon) 23:38:56

【秘】 聖女 リッカ → 白昼夢 ファリエ


その腕の中で見上げる形になった空には
満天の星が煌めいている。
冬の綺麗な星座たちが瞬いている。

あなたの声を聴きながら、
それを見つめる瞳で瞬きをひとつ、ふたつ。
じわり、じわりと気付けばその星空が歪み滲んでゆく。
でも。そんなことにも、すぐには気付くことができなくて。


「 …… う ん 、ファリエ 」



笑顔をつくろうと。いつものようにつくろうと、
そう目を細めるとつうとあたたかいものが頬を伝った。

それで、ようやく気付いたのだ。
何が頬を伝ったのかとか、
笑顔をつくる必要なんて、もうなくなってしまったのだとか。

(-25) oO832mk 2024/02/12(Mon) 23:40:21

【秘】 聖女 リッカ → 白昼夢 ファリエ



「 わたしも ファリエ も 」
「 ここに … この世界にいるわ 」
震う、声がいう。


「 うそでも ゆめでも なくって 」
「 まぼろしでも なくって 」


   「 だから 」



      「 … っ 、だから… っ 」
はたはたと落ちる滴が、
そうしてあなたの衣服に染みを作って。

(-26) oO832mk 2024/02/12(Mon) 23:41:27

【秘】 聖女 リッカ → 白昼夢 ファリエ



「 わたし も ――― 」



「 … わたしも もう 」
   「 ひとりじゃ、ない のね … ? 」


くしゃりと。
突き合わせた顔に浮かべた笑みは、いつもの無邪気そうなそれではなくて。
形容するなら、きっと、"しあわせそう"な。そんな、心からのもの。

意識せずとも持ち上げた白い腕があなたの背へと回ってゆく。
ここにいることを、そこに在ることを確かめるみたいに、
でもあなたとはさかしまに、ただ触れるだけみたいな恐る恐るの抱擁を。
そうしてもう一度だけあなたの身体に頬を寄せ、また少しだけ染みを増やして。

(-27) oO832mk 2024/02/12(Mon) 23:43:08

【秘】 聖女 リッカ → 白昼夢 ファリエ



見上げて滲んだ、冬の満天の星空よりも、
自分を映すあなたの瞳の方が、ずっとずっと綺麗に煌めき、
そして身近に感じられている。

そんな、本当に些細なことが嬉しくて。
手に入れることなんて、ないはずのものだと思っていたから。



 
「 ――― ファリエ 」

「 … だいすきよ 、だいすき 」




零すように、そう呟いた。
そうしておんなじようにしあわせそうに、笑っていた。

(-28) oO832mk 2024/02/12(Mon) 23:44:06

【秘】 白昼夢 ファリエ → 聖女 リッカ

あなたが望んだものが、己と同じだという確証は無かった。
あなたにとって転生者たちは、きっと数えきれないほど現れては消えていった流星のようなもので。
もしも手が届いてしまったら流れることを惜しむしかなくなるから。
こうして、硝子ごしのプラネタリウムを演じていたのだろう。

ファリエはそのうちの一条だった。
箒星の尾はひとつとして衰えずに天を駆ける。
帰りたいと願う煌めきは、燃え尽きるからこそ美しく。
何者にも尾を引かれないことは、きっと互いに傷つかないかたちだったのかもしれない。
それもまたうそではないほんとうだった。

だけどある日気づいてしまった。
流星雨の最中、尾のない箒星がどこにも行けずにいるのに。
だけど今の私は尾を奪われた箒星。
世界を跨ぐ奇跡の力はもう欠片も残っちゃいない。
そんな無限と在る星屑の一欠片だとしても。


あなたにとっての一番星になれたらなら
、と。


満天の星空に劣らない煌めきを。
取るに足りない等身大のやり方でありのまま伝えよう。
(-59) shionsou 2024/02/13(Tue) 23:22:48

【秘】 白昼夢 ファリエ → 聖女 リッカ

「うん……うんっ」
「私がひとりぼっちじゃないなら、リッカだってひとりぼっちじゃないよっ」

触れるだけの優しい抱擁がなんて愛らしいんだろう。
あなたが一体どれだけの間、当たり前に与えられる幸せを知らずに生きて来たのか分からないけれど。
見飽きた笑顔は真っ白なキャンパスだったのだと、腕の中で弾ける色に目を輝かせた。
まるで初めて親に抱かれた赤子のようにすら思えて、お手本を見せるようにまたぎゅうと抱きしめた。
衣服の濡れた所から溶けあうような感覚。
ひとつ、ふたつ。小さな染みがあなたの心の泉になって、教えてくれる。
(-60) shionsou 2024/02/13(Tue) 23:24:39

【秘】 白昼夢 ファリエ → 聖女 リッカ

「きっと──ううん。絶対ひとりになんかさせないから」

やっと捕まえた雪みたいなぬくもり。
瞬くは星座にもならないちっぽけなフタリボシ。
決して交わらずとも決して離れなかった軌跡。
行ったり来たり、巡り廻る箱庭の天上に幾重ものサイクロイドを描いて幾星霜。
もうすぐ、雪が降るそうだ。


 「だいすきって」             
「さようなら」


 
    「だいきらいに」
    「しあわせだね」



御伽噺にも残らない物語を密やかに囁きあう。
夢でも現でも無かった世界は、今この瞬間も確かな思い出を紡いでいた。
──箒星はもう、どこにも行けない。
(-64) shionsou 2024/02/13(Tue) 23:42:39

【秘】 聖女 リッカ → 白昼夢 ファリエ


手を伸ばしても消えてしまう幾重もの星々。
いつしか伸ばすことすらやめて、冷たい硝子1枚を隔て眺める観覧者となった。
それでも、星々が消えることは止まらない。
近付いた心が離れてゆく現実より、幾らもましだっただけで。

だから聖女はひとりぼっち。
つくりだした箱庭の中にいながら、誰の傍にもいない、いられない、ひとりぼっち。


 
でも、今は。
一番星が寄り添って、その姿を照らしてくれる。


(-85) oO832mk 2024/02/14(Wed) 20:21:18

【秘】 聖女 リッカ → 白昼夢 ファリエ


それをこの身で確かに感じたから、
噛み締めるみたいに、聖女の口は語るのだ。


 「 …… うん … ファリエ … 」

       「 しあわせ …… しあわせ ね …っ 」



そうして、少しずつ。
あなたの腕に倣うみたいに、細い腕にはきゅうと力が篭って。
あなたとの隙間をまたひとつ埋めて。

ささやかで静かで、でも大きな"しあわせ"に、
それを感じさせる、あなたの腕と言葉に、暫し、包まれていた。

(-86) oO832mk 2024/02/14(Wed) 20:22:45