人狼物語 三日月国


246 幾星霜のメモワール

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【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ

それは祭りも終盤のある時間。
聖女に会うその前に、あなたの姿を探している。

これまで、あなたの姿を探すのに苦労したことはなかった。
孤児院に行けば、探さずともその姿を見ることが出来たから。

でも今は違う。
人の群れをかき分けるようにして歩いて、あたりを見回す。
他人の視線など気にもしない。
むしろ祝福の声に反応するかのように視線を動かして、貴方の姿をみつけるのだろう。

「――――」

これまで男は、貴方の名を呼んだことがなかった。
貴方だけでなく、誰の名も。

「…………ファリエ」

少しばかり、むず痒い。
(-5) eve_1224 2024/02/15(Thu) 14:14:40

【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール

「ん……?」

真白の雪が道行く人の髪に絡めとられ、街灯を反射して煌めている。
クライマックスを引き立てるような世界。
祭りの熱気はまだ冷めやらぬ大通りに女は居た。
何をするでもなくぼんやりと天から降り注ぐ雪を見ていたようだ。
彼女の色素の薄い亜麻色の髪も例に漏れず、雪に馴染んで透き通って見える。
変わらないうなじの痣も、どこか幻想的に存在を主張していた。

「エミール。
 どうしたんですか?名前なんて呼んだことありましたっけ」

あなたに追いかけられてから数日。
あれから怯えた姿は鳴りを潜めていた。
今日はあてどなく祭りの雰囲気に身を任せていたところ。
名を呼ばれて振り返って小さく手を振りながら近づいた。
孤児院ですら名前を呼ばれることは皆無であり、唯一とも言える知り合いのあなたが初めて名前を呼んだのならすぐに気づいた。
はっきりしない呼び方はあなたらしくて。
ちょっとだけ可愛げを感じたのは黙っておいた。

「……あ。当ててあげましょうか。
 宿題を持ってきてくれたんでしょう」
(-6) shionsou 2024/02/15(Thu) 20:45:50

【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ

揺れる亜麻色の髪から漏れ出る痣の光が、舞い散る六花を照らしている。
振り返った柔らかい表情に、なにか一つ乗り越えたようなすっきりしているように思えて、ひとつほっと息をついた。

「え……と」

名前を呼ばないのには理由があった。
繋がりをできる限り、持ちたくなかった。
愛着も執着も、持ってしまうと離れがたくなるとそう思っていたからだ。
それをどう言ったものかと、言葉に詰まる。
視線を少し泳がせて、やっと、こくりと頷いて。

「そう……宿題、持ってきた」

懐かしい。
自分でない自分だった頃は、毎日のようにやっていた単語に口元を緩めた。

「俺……、聖女と話したよ。
 随分自分勝手で、強引で……でも、すごく寂しがりやだ。
 アンタはそれを、どう思う?」
(-8) eve_1224 2024/02/16(Fri) 14:39:31

【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール

「やっぱり。
 お祭りも終わる頃だからそろそろかなって思っていました」

回り道をするような間をじっと待って、頷いたときに相槌を打つ。
その逡巡に込められた想いをまだ知らないけれど。
あなたのことだから脈絡もなく呼んだ訳ではないのだろうと踏んでいた。

ふっと浮かべた笑みはあの日張り付けた作り物ではない自然な笑み。
あなたが感じたように、憑き物が落ちたような様子は確かだった。
細めた瞳に舞う六花がそうさせるのかもしれない。

「……聖女様と?」

驚きに目をまんまるに開いて、明後日の方へちらり。
すぐに戻ってあなたを見た。

「どう思うと言われても、エミールがそう思ったなら間違っていないと思いますよ。
 あなたって……ほら、よく人の事を見てるから。
 こんなにたくさんの人の痣が光ったのもきっと寂しがりな所為だったのかもしれませんね」

否定も肯定もしない。
人差し指は口許で幾度か跳ねて、頬の横。

「私がどう思おうともう、何も変えられませんし。
 だからやっぱり、どうとも言えません。
 聖女様は聖女様。それだけ。そのままに思います」

「エミールは聖女様がそうだって思ったら、何か変わりましたか?」
(-10) shionsou 2024/02/16(Fri) 20:39:48

【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ

>>-10 ファリエ

「いや……何も変わらない。
 会ったとはいっても、全部夢だったと言われてもおかしくないし……顔はどうしたって見えなかった」

あなたの問に、軽く首を振った。

顔は見ることは出来なかったが、それでいいと思ったのだ。
自分は聖女に力を与えられたし、願いを叶えてもらえる。
所謂お気に入りの一人といったところなんだろう。

あの時言葉をかわしたのが本当は聖女じゃなかったとしても、全てが只の作り話だと思われても構わない。
大事なのは、夢の出来事も全て含めて、答えを決めたということだけ。

その、答えは―――

「実は……俺、死んだかもしれない両親に会えるんだよ」
「その……資格がある」

「でも、それを受けちまったら……アンタにも、子どもたちにも、二度と会えない」

遠い遠い場所に、行ってしまうから。

言い方は少し抽象的になってしまったが、意図はきっと伝わるだろう。
あなたの反応を伺うように、じっとその瞳を見つめて返した。
(-13) eve_1224 2024/02/17(Sat) 20:07:53

【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール

>>-13

「そうですか……」

聖女の事をどう思っているか。
痣を持つ者達はそれぞれに想いを抱えているだろう。
帰りたいと願う心と同じように、帰らないでと願う心もある。

それをあなたが知っているのかは分からないけれど。
帰れなくなった転生者は少なからず彼女を疎んでいるのではないだろうか、と。
己の経験に基づいて思ってしまったものだから、あなたが抱える元の気持ちがどうであるかに掛かっていた。
それはあなたの答えとして聞けるだろう。

「あなたが天秤にかけられなかったのはその二つだったんですね。
 こういう時優しいって言うんでしょうか?
 だってエミールの両親は代わりが居ないでしょう。
 孤児院の
子供達
はそうじゃない。
 一緒に遊んだあなたならよく知っているように、みんな何処にでもいる普通の人間ですよ」

そこには女自身も含まれていた。
しかし、ファリエにとっては数少ない知人であり、この祭りに際して関わった時間が無為だったと言いたいのではない。
単純な勘定。どちらがより特別かという、簡単な計算。
展示物には触れてはならないのと同じ。だから手を後ろに回して客観的に述べる。

「だから……だから、もったいぶらないで言っちゃってください。
 あなたが何を手に入れて何を手放そうと恨んだりしませんから」
行かないで、なんて。特別でもないのに口にできない。
(-18) shionsou 2024/02/18(Sun) 10:05:47

【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ

>>-18 ファリエ

「……俺は別に優しくない。
 ずっと自分勝手に生きてきたからな。何にも固執しないようにして、いつでも今を捨てれるように」

けれどもう。
ここで過ごした年月は、元の世界で生きていた10年を優に超えてしまった。
どんなに無関心でいようとしても、出来てしまった執着を簡単に捨てることはもうできなくて。

自重するように嘲笑う。
何かを捨ててしまう時、胸は痛むけれど。
自分にとって、いま大事なのは。
産んで愛してくれた両親よりも、これからも手を伸ばしてやりたいと思う人たちのこと。

「聖女も、聖女の祝福も関係ない。
 祝われようが残念がられようがどうでもいい」

また会う事があるならば、その時はもう少し穏やかな会話をしてみたいとは思う。
別に、あの聖女のことが嫌いではなかった。
それよりも特別なものが、あるだけの話し。

(-26) eve_1224 2024/02/18(Sun) 20:55:32

【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ

>>-18>>-26 ファリエ

いつも、何も口にしないまま生きていた。
だけど大事なことは、言葉にしなければ伝わらない。
そうやって失敗したことは、確かにあって。
その度に感じたこの胸の苦しさを、どう言葉にすれば、貴方に伝わるだろう。

視線を落として、降り注ぐ六花の奥にある済んだ瞳を見つめた。
はく、と息を吸って、吐いて、もう一度。

「ただ俺は……ここが好きだ」
「……一緒に居るなら、……アンタが良い」


少し声のトーンが落ちてしまったが、これが答え。
自分自身で考えて決めたこと。
男が選び取れるのは、ひとつだけ。

(-27) eve_1224 2024/02/18(Sun) 20:59:30

【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ

>>-18>>-26>>-27 ファリエ


「だから……、ファリエ」
「この世界のきれいな物を、……俺と一緒に見に行こう」


――俺は、あの世界には帰らない。
(-28) eve_1224 2024/02/18(Sun) 21:01:27

【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール

>>-26>>-27>>-28

じっと、あなたを見たまま答えを聞き届け。

「────」

また目をまんまるにした。
外の世界を見に行こうと話をしたのは覚えている。
けれど、まさかこんな風に選ばれるなんて思ってもみなかったから。

「え、ええと」
「あの……えっと…………」

あの、とか。えっと、とか。場繋ぎの声ばかりで考えが言葉にならない。
あなたからこうもはっきり告げられた答え。
それは、今まで奥底に秘められていたこその純真さもあった。
積み上げられた時間は目には見えなくとも、滲みだして女を逃がしてくれない。
きっとそれはポジティブな想いだけで連ねられていない。
真っ直ぐに伝わってしまった証拠に、薄墨の瞳はあなたを映したまま揺れ続けている。

(-37) shionsou 2024/02/18(Sun) 23:31:16

【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール

>>-32

「エミールは本当は、そういう人なんですね。
 今までは我慢していて深入りしないところで足を止めていただけで」

言葉に詰まる。
思い出すのは祭りの前のこと。それから追いかけてくれた時のこと。

うー……
だから、はあ……私のこと気にかけてくれたのも、ですよね」
「真面目だなあ。それを優しいって言うんですよ。
 あなたくらいなら、自分勝手には入りませんよ」

少なくとも、全部を切って捨てようとした我儘で薄情な女よりはずっと人情があった。
そんな私もひっくるめてファリエだから、こんなのが選ばれて良いのかなと思わないと言えば嘘になる。
けれど口に出してしまえば、あなたの誠意に泥を塗るような心地がした。
(-38) shionsou 2024/02/18(Sun) 23:32:49

【秘】 白昼夢 ファリエ → 寡黙 エミール

「──じゃあお言葉に甘えて」

だから、私も変わりたい。
この世界を愛せるように。
この世界に居させてくれるものを受け入れられるように。
そうして女はこの世界に生きていると言えるようになるため。
一度も逸らさなかった瞳を細めてはにかんだ。

「私を
この世界に
連れ出してください。エミール」



──祭りの前と後できっと致命的に変わったりなんてしない世界。
幾星霜の未来が待つ、聖女の作り上げた世界。
私を傍に置いてくれる人の傍で息をできたら。
私は幸せになれるかな、なんて。
これもエゴだろうか。


ううん。これは痛くないしあわせのかたち。
これからはこんな思い出を積み重ねていけるよね?
(-39) shionsou 2024/02/18(Sun) 23:36:10
ファリエは、これからも醒めたまま夢を見る。
(a4) shionsou 2024/02/18(Sun) 23:36:55

ファリエは、天を駆ける箒星の尾は──もう要らない。
(a5) shionsou 2024/02/18(Sun) 23:37:53

ファリエは、
「さようなら」
(a6) shionsou 2024/02/18(Sun) 23:39:20

【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ

>>-37>>-38>>-39

「……うん。
 ずっと、我慢してた……んだろうな、俺は」

10代の少年が、何にも心を捕らわれないようにするなんて、相当心を押し殺してないと出来はしない。
そうして出来上がったのが、寡黙な青年という代名詞を得た人間だった。

それをやめてでも何かに手を伸ばしたいと思えたこと。
ずっと大事にしていきたいと思う。
幾つもの星が昇り、幾つもの霜が降りても、ずっと。

自分たちはきっと、まだまだこの世界で生きていくには未成熟だから。
この世界の色んなところに触れていくのが必要なんだろう。

(-41) eve_1224 2024/02/19(Mon) 0:32:32

【秘】 寡黙 エミール → 白昼夢 ファリエ

それでも自分が抱いている想いが伝わったことが嬉しくて、めったに緩まない目元が緩む。
連れていきたい、どこまででも。
胸を張って、自分たちはこの世界に生きる人間なのだと聖女に、この世界に示せるように。

「あぁ、……一緒に行こう、この世界に」

ゆっくりと手を伸ばして、あなたの手をそっと握った。
あの時と同じだけど、あの時より温かい小さな手。

「……アンタが思うよりずっと、俺はアンタが好きだから……よろしく、これから」

初めて、強くなろうと思った。
大切な人を守り切るくらいの力を。
この世界で生き抜く強さを。
共に過ごせる時を大切にしていくために。


そうして自分たちは色んな場所を巡って、
いろんな物を見て、何かを感じ取ってこの世界を生きていく。
思い出を心のアルバムに飾って何冊も、二人で共有していけたらいい。
(-42) eve_1224 2024/02/19(Mon) 0:33:55