人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:

全て表示


【独】 歌い続ける カンターミネ

突如、混沌とした警察署内に、署内放送が響き渡る。
外の花火に続いて。それは業務連絡でも、上司からの叱咤でも、
内部告発でも、誰かの怒号でも悲鳴でもない。

力強く、軽やかなドラムの鼓動。
スネアドラムとシンバルが手を取って奏でる前奏。
貫くように、踊るサックスの音色。
トロンボーンと共に、身体が勝手に動くようなリズムを。
それらが合わさり、高まり、渦巻いていく中、
楽器のCD音源とは違う、『生の声』が叫ぶ。
聞き覚えのある者はいるだろうか?いるとしたなら、
『ライムグリーン』の髪色を思い出す事だろう。

《"Hey!Pachuco!"》

その声を合図に、署内放送の音量が最大に切り替わった。
牢の隅から隅まで。尋問室まで。
警察署内の全てに響く、バカ騒ぎのジャズの音。
この曲が流れた映画では、緑色の顔の怪人が暴れに暴れた。
仮面をつけたが最後、誰にも止められないという。
(-0) shell_memoria 2023/09/26(Tue) 22:00:27

【独】 歌い続ける カンターミネ

《"Hey!Pachuco!"》《HEY!》《HEY!》

合いの手を、叫ぶ。楽しげに。同時に、署内の固定電話が
一斉に鳴り響く。受話器の先からは同じ音楽が流れて来る。
気が狂いそうな程、一瞬で深夜の警察署は騒がしくなった。

いつもの笑みがマイクの向こうに見える。
仮面ならぬ、端末を手に入れた先生は誰にも止められない。
三度、ループ処理された曲が叫ぶ。

《"Hey!Pachuco!"》

今度は、署の外で異変が起きた。
一斉に鳴り響く、耳をつんざくクラクションの音!
パー、パー、パー!ファンファンファンファン!プーーーーーーーー!!ビッビー!ビッビー!!
近所の車という車が、警報音を発し始めたのだ。
静かに寝ているのは、古い時代のアンティーク品。
機械が入っていないタイプの昔の車だけ。

《"Hey!Pachuco!"》《HEY!》《HEY!》

それは勿論、警察署地下の悪ガキ達から押収した
改造車も含まれる。一般車なんか目じゃない、
バカみたいな音が地獄の底から響き渡った。パパパパパー!
近代の手が入った車達が、カーステレオを全開に。
夜中に突然歌い出す。近所中の灯りが付き、
怒号が警察署の方面へと投げかけられる。

釈放されている者以外の、立派に『証拠』の残る者も。
騒ぎに乗じて逃れる事が出来る、かもしれない。この、『先生』のように。
(-1) shell_memoria 2023/09/26(Tue) 22:01:25

【独】 歌い続ける カンターミネ

/* 消し忘れて『深夜の』とか書いてあるじゃん!!
見なかった事にして朝として扱っていいです(陳謝)
(-2) shell_memoria 2023/09/26(Tue) 22:08:34

【人】 歌い続ける カンターミネ

「"Hey!Pachuco!" HEY! HEY!」

携帯端末を握って叫ぶ。寝てる奴が居ても叩き起こせ。
どうせここから先は大騒ぎの時間だ。

「……さーて、そろそろ誰かは動くだろ。
 スマートキーハッキングしてーっと。
 1、2台外壁に突っ込ませとくか。HEY!」

ドン!ドン!ドラムの音に合わせて、
それなりに高級な車が外壁に突っ込んだ。

「しばらくはこれでいい。あとは……
 あーった。俺のク・ス・リ!
 ……あの変態メガネ野郎め、"本物"をくれてやろうかな。
 ま、どうせしばらくは潜伏しなきゃいけないしな……」

呟くと、適当な無線機と知らん警官の端末を
ダクトテープでぐるぐる巻きに。
曲のリピート設定をONにして、隠しておいて。

これが発覚する頃には、すっかり『先生』は
署内のどこかに隠れて消えてしまうのだった。
(16) shell_memoria 2023/09/26(Tue) 22:25:31

【秘】 歌い続ける カンターミネ → 門を潜り ダヴィード

大騒ぎの中で、あなたの端末が鳴る。
それを確認するのはいつになるかはわからないけど。
数件のメッセージが立て続けに入っていた。
それは前日に送ったものへの返信だ。

『故郷の母ちゃんか子供みたいな文章だなおい』
『怪我:ある
 痛み:寝て忘れた
 休み:しばらく取れない
 ご飯:臭いメシ飽きた
 野菜:気が向いたら』
『歌はな、警察署で凄いのが聞けたぞ。
 近くにいたら面白かっただろうに。
 帰れるかは……まだちょっとわからんな。
 やる事が残ってるから、俺も残ってるんだ』

『ま、帰れたら遊んでやろう。
 なんたって俺は「先生」だからな』

メッセージはそう締めくくられる。
どうやら、口の叩き方からして元気らしい事は伝わるだろう。
(-10) shell_memoria 2023/09/27(Wed) 13:21:38

【秘】 門を潜り ダヴィード → 歌い続ける カンターミネ

おそらくきっと、男がその返信を見たのはペネロペの運転する車の中。
必死こいて汗を流したあとに車に詰め込まれて、端末が通知を発していることに気づいてからだった。

『帰りを待ってるけなげな後輩ですよ
 すみません ちょっと盛りました』

『しないでくださいって書いてあるの読みました?先生
 帰ってきたらめちゃくちゃ苦情入れてやる…』

帰ってきたら、あなたに会ったら、また明日。

貴方が元気でメッセージを返してくれたという事実だけで、男は安堵することができた。
だからその返信だけをぽちぽちと打ち込んで、送信する。
そのまま端末をしまい込んで、貴方のやる事とやらが万事平穏に終わればいいな、と思った。
(-25) NineN 2023/09/27(Wed) 17:47:04

【独】 歌い続ける カンターミネ

とあるひとりの女性警官が姿を消した。
バカ騒ぎの中で消え去ったひとりの姿は、
喧騒の内にうやむやになり。

ある者は出ていった者達が抱えていった、
それも下着以外の全てを剥かれて、なんてことを口にしたが。
結局それも噂の内。今必要なのは人手でしかないから、
そんな噂もやがて消え失せてしまった。

「お疲れ様で〜す」

巡回の警官が笑いながらすれ違う。
……あんな奴居たか?そう疑問を持った者もまた、
やがて忙殺に思考をもみ消された。
なにせ特徴の薄い警官だったから。
長くも短くもない茶髪が揺れる、小柄な警官だったから。

これは、どこかで事が動き始める前の事。
準備を始めた、『ケーサツ』の話。
鼻歌混じりに廊下を歩き、消えた人間のデスクを漁り。
書類を書き込むと、ポケットに捻じ込んで、
また署内のどこかへと姿を消した。
(-37) shell_memoria 2023/09/27(Wed) 21:02:45
カンターミネは、情報チームに連絡した。もうすぐ帰る予定だ、と。
(a11) shell_memoria 2023/09/27(Wed) 21:06:16

【独】 歌い続ける カンターミネ

署内のどこかで『ケーサツ』の端末が震える。
取り出し見ればその場で仰け反るような文字が踊っていた。

「勘弁してよオッサン……なにしてんの……?」

思わず"素"が出た。こほん、と咳払いひとつ、
周囲に人影がないのを確認して高速で返事を飛ばす。

『他の連中には内密にして探し出せ』
《えっ?連携を取った方がいいのでは》
『殺すならそうだが、俺はまだ用があるんだよ。
 指揮権も貰ってるし、港から最新の空撮ドローンを
 かっぱらってこい。熱源探知機能付いてる奴な。
 それからチームルームに下水道の地図があったろ。
 あの辺揃えてB4倉庫で開始しろ。
 俺以外の誰にも知らせんなよ』
《しかし……》
『あ〜なんかうろ覚えだけど、確か港には
 新型のグラボがどっかに運び込まれてた気がするなあ。
 それはさておき、いい働きを見せた奴の手元には
 幸運が転がり込むらしいって昔から言うんだよな〜』
《イエスマム》
『よろしい。他の連中に先を越されるな。
 俺の直属情報チームの実力、見せてみろ』

そして端末を閉じる。

「始めよう」

警帽を深く被り直すと、『ケーサツ』は歩き始めた。早足に。
(-97) shell_memoria 2023/09/28(Thu) 17:14:53

【独】 歌い続ける カンターミネ

>>-100

ごつ、ごつ、ごつ。巡回の重いブーツの音がする。
それを履いた茶髪の
ウィッグを被った
『ケーサツ』は、あなたの牢の前で止まった。

本当なら、もう少し気の利いた声でもかけるつもりだった。
或いはおふざけの気配を纏わせて元気づけるつもりだった。
そこにある光景は、それらを忘れさせるのに充分過ぎた。

今この場にあのイレネオが居たら。もし、牢の中に彼が立っていたなら、間違いなくカンターミネは彼がやったと決めつけて、全力を賭して殺しただろう。
それくらい、その尋問の跡は慣れ親しんだ者にとってはまだ、『甘かった』。だからといって状態に安心する光景ではまったくないが。


鍵束を出す音が聞こえる。内1本が扉に挿される音が聞こえる。
少し古い牢の扉が軋みながら開いて、ごつ、ごつ、ごつ。
近付くにつれて、喉が詰まる。声の代わりにポケットから紙を取り出し広げて見せた。それは犯罪者の移送依頼書だ。
当然、偽造された。


「……、」

用意した言葉が出てこない。覚悟はしていたはずだが、
それでも足りていなかったらしい。
少しの間の無言の後で、やっと声を出した。

「……
ん゛んッ
、ダニエラ・エーコ。
 お前の隠し持つ情報に関して、より上位の機関による精査・・を行うべきだとの進言があった。よって、三日月島刑務所までの移送を行う。……。移送車までの私語は厳禁だ。また、……」

少し気取ったような声。それも途切れ途切れに。そして、

「あー、やめた。迎えに来たぜ、お姫様。」

いつもの声でそう告げた。
(-102) shell_memoria 2023/09/28(Thu) 19:01:57

【独】 歌い続ける カンターミネ

>>-104
「おぁぇ」

そんな間抜けな声が出たのは『努力』を見たからで。
変装の意味がなくなる、慌てて抱きとめるような格好に。
流れる涙にこれまた慌てて、偽造書類を取り落とし、
茶髪のウィッグを揺らしながら辺りを窺う。

「あ、え、エリー、ごめんて、遅れたのは謝るって。巡回ルートの把握と監視カメラの細工に手間取ったの。でもほら、来たから。ちゃんと来たろ?な?後もう車で外出るだけでこの場はクリアだから、な?安心してくれって。あ、あれか!?い、痛かったか!?」

慌てたおかげで勘違いも甚だしく、息つく間もなく
口を動かしながらわたわたと身振り手振り。
それでもなんとか痛くないだろう場所を探し触れ、寄って。

「……え、えっとな、後はもう、偽造書類とかあるし、
 このまま護送車で脱出するだけだから。
 運転手も用意してあるから、手当はそこで――」

ふと、目についた。約束の証がない指。
触れれば当然痛いだろうから、そこには触れないように。
そっと手を取って、ほんの僅か唇を落とす。

「――今はこれで我慢して。生えたらまた、塗らせてよ」

そうして、瞳を目前に。指先で慎重に涙を拭う。
これ以上余計に傷つけないように。
酷な事に、まだやる事は残っている。
まだ止まれない。まだ終わってない。まだ、まだだ。
でも、この一瞬だけでも、安堵を抱かせてやってほしい。
それが、多分俺が任された事だ。あの男から。
(-109) shell_memoria 2023/09/28(Thu) 20:45:29

【独】 歌い続ける カンターミネ

>>-128

「……後でたっぷり泣いてもらうぞ、その口も素直に
 してやる。カンターミネ式尋問術、ピヨピヨ口の刑だ」

おどけて笑う。
わかってるから。


「正直言って、外はっていうか全部の状況がかなーりヤバい。
 が、今説明するのはエリーの心などがもっとヤバいから、
 後で手当しながら言う。いいな?よし、行こうぜ」

こほんと咳ばらいをひとつ、書類を改めて拾い上げ。

「……結構。常にそう従順であってもらいたいものだ」

今度は気取って、小柄なケーサツが先導する。やがて辿り着いた駐車場では、改造車が未だ喧しくアラームだのクラクションだのを響かせ続けて、その対応に追われる者が殆どだった。
おかげで記帳係を見つけるのに少し手間取ったが、
ともあれ護送車を一台手配して、あなたを護送席に、自身を運転席に。

「さて。ドライバーの所までちょっと我慢してくれよ!」

ちなみにケーサツの方は運転があまり得意ではない。
車は揺れに揺れたし、敷地から出る際門柱に車体を擦ったが、
丁度その辺りで運転手らしき男がやってきた。

「御苦労マリオ。悪いね、運転は苦手で。交代だ。
 俺は後ろで見張るから、一先ず西ルートで走ってくれ」
(1/2)
(-131) shell_memoria 2023/09/28(Thu) 23:09:43

【独】 歌い続ける カンターミネ

>>-128 >>-131

「場合によっては後で車を変えるが、とりあえず
 手当から……つっても湿布と軟膏、
 あと俺製の鎮痛剤くらいしかないけど。
 爪は……まあ持ってる訳ないよな、
 普通に被覆材使って応急手当にしとくか……」

そんな感じで、あなたの隣に寄り添って。
いそいそ、せかせかと傷を見ていく。
勿論運転手が覗けないように事前にカーテンはした。
頬にはアイシング。痛みが酷ければ鎮痛剤。
肩はどうしたもんかと思いながらも、
軟膏タイプの麻酔で一時的に痛みを引かせるだろうか。

「さて、改めて。
おかえり、エリー。
待たせてごめん。
 そんでごめんついでに、もう一個ごめんがある。
 この後色々やる事がある。多分エリーにも来てもらう。
 質問と泣きごとと愛とかまあその他なんでも聞くし、
 疲れてるなら寝てもいい。数時間は余裕あるはずだし」

とりあえず一旦落ち着ける状況にはなったようだ。
聞ける限り聞いてもいいし、抱き着けるだけ抱き着いてもいいし、心配させやがってとパンチの一発をいれてもいい。
カンターミネは、傍に居る。
(2/2)
(-132) shell_memoria 2023/09/28(Thu) 23:19:59

【秘】 摘まれた花 ダニエラ → 歌い続ける カンターミネ

>>-131 >>-132 >>-140

何度か相槌をうち、一区切りのついた頃。
少し揺れる目が甘えるようにあなたを映した。
身体をゆっくり反転させると、首筋へときゅうと抱き着いた。
手探りの右手で、茶色のウィッグを一度むしり取る。

「……。」

少し身体が震えていた。回す腕からそれは簡単に伝わっただろう。
あの夜から先、ずっと我慢をしていたのだ。
そうやって我慢するのは得意だけれど、そこにあなたがいるのに我慢する理由が今どこにもない。

「あの…ねえ。」

そう口を開くのにも少しばかり時間をかけた。

やっぱり、もお、置いてったら、やだあ……


子どもが大人の顔して背伸びして呑み込んだ、…そのはずのものを吐き出して。
身体と一緒で震えた声がそう紡ぐ。
そうやって今はすり減った分を取り戻さねばならなかった。
その先にある不安に、きっと備えようとしていたのだ。
(-141) oO832mk 2023/09/29(Fri) 0:18:30

【秘】 歌い続ける カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

>>-140 >>-141

「うん、」「おかえり」

何度言ったって別にいいはずだ。この先何度だって言う訳だし。
そうしてしなだれかかる貴女を、当然のように受け止めて。
その背に手を回して、二度、三度軽く叩く。あやす様に。
ウィッグ、結構高いんだけどなあ、なんて考えは
いつもなら口からからかうように出てたけど、今日はナシだ。

「……。」

温めるように、背中を擦る。昇った指を髪に沈めた。
尋問の形跡か、少しべとついたのを構わず、指で梳く。

「ん」

ほんのり上がる口角に、ばさりと揺れ落ちるライムグリーン。
解放された微かな汗のにおいが一瞬漂った。
髪から耳を、耳から頬を。腫れてない頬に指が流れる。

「……二度としない。だから、エリーも俺の傍から離れないでくれ」


囁く。真っ直ぐにミントグリーンを見つめ返す。
殆ど距離のない位置で、呼気を絡ませている。
――王子様の瞳にも、今は波が立つのが見えるはずだ。
その多くは喜びで、幸せで。だが他が0とは、言えなかった。
それでもせめて、この子の前では、他の全ては塗り潰そう。
この先にある大きなものに対して、少しでも……
約束通りに俺が支えて、約束通りに心を守る為に。
(-143) shell_memoria 2023/09/29(Fri) 0:44:54

【秘】 摘まれた花 ダニエラ → 歌い続ける カンターミネ

>>-143

背から髪、耳、頬へ。
流れる指先に、くすぐったそうに身じろいで。
邪魔だなんて言い方は、ひと仕事した茶色髪に本当に悪いのだけれど、やっぱりこの鮮やかな色が女は好きで、好きで。

―――うん。


殆ど音だけで頷いて、微かな距離すら埋めていく。
欲しがり屋さんのお姫様が、その瞳を見て堪えれるはずもなかったのだ。
啄むように、1度2度。…後はもう、満足いくまで深くまで。
寂しかった分。怖かった分。そして、今の不安を塗り潰す分。

既に知っていること。察したこと。
潜入任務は完全に終わりになったこと。
脱獄は自分が手を貸せずとも成功したこと。
その上でなにか良くないことが起きたのだということ。
そしてそれが、あなた若しくはアレッサンドロ・ルカーニアに関わる何かであるということ。

それかもう、それすら関係ないくらいの世界の終焉か。
これすら絶妙に間違いでないのはきっと最終的に幸いすることになる。



いづれその覚悟ができた頃。
ゆっくりと顔を離して女は訊ねることとなる。

「…ミネ。」
「何があったか。聞かせて」

含んだ緊張の分、声が強ばった。
(-170) oO832mk 2023/09/29(Fri) 7:02:07

【秘】 歌い続ける カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

「―――」

1度2度。それから深く。深く……。
本音を言えば。永遠にこうしていたい。
薄汚れた痕を塗り潰して、
ずっと、ずっと、全部混ざり合いたい。
だけど……少なくとも、今はまだ、だめだ。これは、手当て。
この後に立ち向かう為の準備だから。
それでも求められる限り応え、何度だって撫でる。
だって、それだけ頑張ったんだ。少しは報われるべきだろ?
俺も一緒にさ。


やがて。 強ばった声を聞けば、もう一度だけ唇で触れる。
顔を離せば、その目に僅かに迷いを乗せ、静かに目を瞑って。
開いた時には、迷いは消えていた。
(-198) shell_memoria 2023/09/29(Fri) 17:43:54
カンターミネは、口にする。「エリー、」その名前を呼ぶ時は、いつだって。
(a16) shell_memoria 2023/09/29(Fri) 17:44:26

【秘】 歌い続ける カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

「俺は現場は見てないからチームからの報告書だ。あー、
 まず、ノッテファミリーのアジトでスーツケースが
 爆発したらしい。中身は花火で、けが人はナシ。その直後、 
 ……現れたアレっさんが、突然襲撃をかけた。単独で、だ。
 現場にいた5名に重軽傷を負わせた、命に別状はなし。
 そして直後アジト内に仕掛けた5つの爆弾を起爆。
 爆破によるけが人はないが、建物と設備が
 それなりに被害を受けた。当人はそのまま逃走、
 下水道に逃げ込んで以後行方を晦ませている……」

傍らに置かれていた二人分の着替え、
その片方のポケットから報告書を取り出して差し出す。

「……上からの指示としては『報復』だそうだ。
 その、……今回の法案の件にも関わりがあるから、ってな」

これは、あなたを案ずるように言葉を少し暈した。

「エリー。俺は、アレっさんを探すつもりでいる。
 報復なんかどうでもいいが、個人的な用があるからな。
 ……あのおっさん、絶対前から準備してやがったし、
 しかもこれ単なる裏切りじゃねーもん絶対」

そう呟いて、一度言葉を切る。
(-202) shell_memoria 2023/09/29(Fri) 18:00:08

【秘】 歌い続ける カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

「……ここから先は、聞かなくてもいい。
 個人的な用を済ませる為にエリーにも来てもらいたいが。
 それに際して、多分、エリーにとって
 結構辛い事が起きる……と、思う。わからんけど。
 俺が勝手に思ってる辛い事が、
 俺が勝手に予想してる内容で、起きるかもしれんってだけ。
 ……でも、多分、そうなるし、俺は……エリーを
 泣かせるかもしれんが、内容も言うべきだと思ってる」

あなたにとって酷な事を伝える、とそう言っているらしい。
それでも、真っ直ぐに目は見つめたまま。
どんなに優しい嘘でも、あなたに嘘はつきたくない。

「聞きたくないなら、それを尊重する。
 ここから逃げて、全部忘れたいって言うなら、
 それでもいい。このまま車ぶっ飛ばして
 どっか別の国で生きるのもアリだ。
 俺はそれについていくし、最後まで一緒にいる。
 個人的な用だけ済ましたくはあるけど、
 エリーが行くなって言うなら、諦めよう」

「けど、俺の話を聞いて、俺のする事を聞いて、
 俺と一緒に行くって言うなら、改めて誓うよ。
 俺は、お前を全部から守ってやる。
 お前の心が痛い時、傍でずっと抱きしめてやる。
 お前の足が折れそうな時、必ず支えて一緒に立つ。
 ……どうする、エリー。」
(-207) shell_memoria 2023/09/29(Fri) 18:17:49

【秘】 摘まれた花 ダニエラ → 歌い続ける カンターミネ

最後に触れた唇と。呼ばれたその名前と。
多分それで本当に、心の準備は整ったのだと思う。
そうやって、ふしぎなくらい凪いでいた。

聞こえる言葉に背筋が粟立つ。
報告書の内容はすんなり頭へと入ってきた。

「そっか。」

無感動な声。
多分今まで聞いたことがないくらい冷ややかな。
それでいて、その口元だけは歪に
笑んでいる



「……ミネ」

しずかな声で促す。

「聞かせて。」


報告書を持つ手だけが不自然に震え。
合わせて紙がぱさぱさと揺れる音。
そうしてライムグリーンを視界に入れた女は笑い直す。
笑うのは得意だ。そしてそうしなければならないときは往々にして存在している。
今みたいに。
(-221) oO832mk 2023/09/29(Fri) 20:54:24

【秘】 歌い続ける カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

「っ…………エリー……」

恋は胸を締め付けるなんて聞いた事があるし、
今までだって同じ相手に何度かそうなった事がある。
でもこれは、きっとそうじゃない。ああ、つまり、
これは本当に、……きついな。

せめて、と。震える手を握る。笑うその顔に近付き、
額を合わせる。目を閉じて、名を呼んで、目を開く。
ミントブルーが少し滲んだ。

「エリー。……ごめん、言うな。」

少しだけ、強く握る。だって、……自分の手も震えている。

「……ファミリーから狙われたら、逃げられない。
 今は俺にも、他の誰にも見つかってないが、
 時間の問題だと思う。アレっさんもわかってるはずだ」

遠回しに言いたくない。
それは希望の芽を潰しながら歩くようなものだから。

「そのくせ、襲撃は中途半端だ。設備施設に損害?
 5人の負傷?アレっさんがやろうと思えば、
 下手すりゃこの地域半壊までいけるだろ。なのに
 『遠慮』してる。つまり裏切りは見せかけか、
 じゃなきゃ……必要な処置って辺りだ」

自分の中でも整理をつけないといけない。
そうじゃなければ、目の前の子も守れない。
(-228) shell_memoria 2023/09/29(Fri) 21:31:10

【秘】 歌い続ける カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

「それにこの前警察内で会った時、港を落ち着かせるよう
 頼まれたし、指揮してもいいとまで言ってた。
 メイドマンクラスの名前も出して使えとも」

つまり、完璧な港を扱う、用意周到で実力のある男なのに、
それを俺に渡す時点でもう、管理を投げたようなもの。
或いは、もうとっくに準備を済ませていた。

また、手を握る力が強まった。もう、唇の震えも隠せない。
(-231) shell_memoria 2023/09/29(Fri) 21:39:49

【秘】 歌うのが怖くとも カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

「エリー。アレっさんは、……死ぬ気だし、
 死ぬんだと、思う。殺されるのか、死ぬのかは、
 ごめん、わからない。でも、命を落とすと、思う」

「俺より付き合いが長いエリーがどう思ってるかは
 わかんないけど……俺も、あの人には結構世話になった。
 それに、エリーをあの人は世話してくれてたと、
 思ってる。……俺、親ってものの事は、正直言って
 全然わかんないから、間違ってるかもしれないけど、」

逡巡。迷い。口にしてはいけない、と思う。
でも、口にしないといけない、とも思う。

俺、アレっさんの事、エリーの親父さんみたいに思ってる。

 俺がこっちの世界に来てから何度も世話になって、
 カフェでバカ話して、なんだかんだ可愛がってもらって、
 俺も、アレっさんのこと親父みたいに思ってたのかも。
 ……アレっさんが、俺らの事どう思ってたかは、
 全然わかんないけど。もしかしたら、
 なんとも思ってないかもしれないけど、でも、」

「……俺達の親父が死ぬ前に、礼とか、文句とか、
 ワガママとか、色々。……言いたい。言っておきたい。
 すっげー辛いと思うけど、……言えないより、いいと思う」

「一緒に、言いに行かないか。中身はなんでも、いいから」
(-232) shell_memoria 2023/09/29(Fri) 21:41:26

【秘】 摘まれた花 ダニエラ → 歌うのが怖くとも カンターミネ

「……うん」

震えた手と震えた手が重なる。
目を伏せた女はその手を持ち上げ、あなたの手に口付けた。

語る間、相槌を続ける。檻の中の言葉。預けられた荷物。
…事前に計画され準備は済んでいた。それは女の方が、きっとよく分かっていた。

「…うん」

そしてファミリーが彼を追うことだって。
面子にかけて逃がすわけにはいかないことだって。
頭の中で分かりきっていたことひとつずつ、言葉にされて形になって。

「………………うん。」

だから、そうやって。
ただ聞き分けのいい子供みたいに頷いて。

「…あたしは、」
(-244) oO832mk 2023/09/29(Fri) 23:34:45

【秘】 摘まれた花 ダニエラ → 歌うのが怖くとも カンターミネ

「……。」

言いかけた言葉を止めたミントブルーがあなたを映す。
それを口にする勇気のない意気地無しだった。
そうやって、やっぱり受け取ってばっかりだった。
そんな数年が、こういうときに、返ってくる。


「…言えるかな。」

そんなだから、あまり自信はなかった。
それが必要なことなのかも、全然判断できなかった。
ただ何が起きても隣にあなたがいてくれるなら。…逆にいえば、それしか確かなものはここになかった。


「…………
いく



それでも。
そうやって頷いたのは。
ずっと聞きたかったことが、ひとつだけあったのを、思い出したから。
(-245) oO832mk 2023/09/29(Fri) 23:36:21

【秘】 歌うのが怖くとも カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

「……。」

言葉を止める姿をライムグリーンに映す。
互いを映し、認める姿。
きっとどちらにも――震える女が映っていた。
子供の頃からあんまり変わらない二人。
我慢する方と、しない方。
わがままを言えない方と、言える方。

頷くあなたの言葉に、こちらも頷いてみせる。

「言えるよ。エリーなら……言える。
 一緒に、言いに行こう」

勇気づけるように、あなたの手にくちづけを。
静かにしかし断言するその瞳には、あなたへの信が満ち。
もう、瞳に揺れはない。これはあなたの隣を行く。
(-248) shell_memoria 2023/09/30(Sat) 0:27:42

【秘】 歌うのが怖くとも カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

「……よし、そうと決まればエリーは少しでも休むんだ。
 俺のチームが今、アレっさんの移動先を探してる。
 最新の機器でフル稼働でだぞ?楽勝で見つけてやる。
 見つけたらすぐ、かっ飛ばして現地に向かうからな。
 後はまあ、なんだ。……ノープランだ!はは……」

弱く笑うと額を離して、壁際に座り込む。
護送車の床は少し硬いが、持ち込んだ毛布が2枚。
1枚は床に敷いて、もう1枚はあなたに。おいで、と手招き。

「……なんとかなるよ。なんとか、する。
 俺が傍に居る。俺が支える。俺が守る。
 ……安心しろ、は無理かもしれないけどさ、
 ちょっとはマシだろ?それこそ、この毛布みたいに!」

へら、と笑っておどけたようす。傍らのラップトップには、
絶えず状況連絡の様子が流れ続けていた。
(-249) shell_memoria 2023/09/30(Sat) 0:44:57
カンターミネは、歌う。歌うのが怖くとも。
(a23) shell_memoria 2023/09/30(Sat) 0:45:33

【秘】 摘まれた花 ダニエラ → 歌うのが怖くとも カンターミネ

…一緒に。
うん、とまた頷いた。

でも。言って、どうするんだろう。
それで、何か変わるんだろうか。
そう湧くのは女の場合、仕方がないことだった。
突然の喪失ならばとっくに識っていた。
それだって乗り越えてがまんしてきたはずだった。


だからこの場合、信じたのはやはりあなたの言葉だったように思う。
手当のされたこの手に直接口付けが触れずとも、そこには熱がともるようではあったから、それだけをただ、頼りにしていたのだと思う。

手招きに応じて、敷かれた毛布の上へ。
ぺたりと座り込んで、あなたへ手を伸ばす。
やけに控えめな甘え方だった。それでもそうできたのは、きっと幸なことだった。
横たわって、目を閉じる。いつものようにすぐに眠れそうにはない。
瞼の裏には、ずっと同じ人の顔が流れていた。
幼子が、いつだって心の中にいる。
でもその幼子は、『 』に甘えることだけが本当に下手くそだった。
(-286) oO832mk 2023/09/30(Sat) 8:49:53

【秘】 歌うのが怖くとも カンターミネ → 摘まれた花 ダニエラ

いつもよりずっと控えめな甘え方。
それはどうしても、何かを我慢するようにしか見えなくて。
心の内がじくりと痛んだ。

その手を取って、ゆるやかにいざなう。
引きずる事も、迎えに行くことも簡単だ。
でも、カンターミネは、出来ればあなたの意志で
傍へ来ることを選んでほしかった。
これが強制では、ただの自分のエゴではないと信じたかった。

横たわったその顔にかかる髪を、少し退けてやる。
いつもの寝顔と違う表情にまた、じくり。
小声で運転手に指示を出すと、向き直って。

「……、una regina fulgida e bella al pari d'una fata
 siede accanto alla culla tua dorata...」

少しでも。ほんの少しでも、今が穏やかであるようにと、
前と同じ子守歌Ninna Nannaを歌って、怪我のない箇所を撫でさする。

やがて、ラップトップの端末から通知が届くのだろう。
あなたを起こすまでの間、これはずっと傍から動かなかった。
(-314) shell_memoria 2023/09/30(Sat) 16:56:38

【秘】 摘まれた花 ダニエラ → 歌うのが怖くとも カンターミネ

いつかと同じ『子守歌Ninna Nanna』。
身動ぐように身体を寄せた。その身体は震えてもいなかった。
それでもやはり寝息となるには些か時間はかかっただろう。
一緒にハーモニカの音色を思い出せば、まるで、自分のやってきたことが返ってきたようですらあった。

…いづれ、女は夢に落ちる。
そのとき見た夢が幸せな夢だったのか不幸な夢だったのか、後になっても思い出すことはない。
呻くような寝言が誰かのことを呼んだ。
Madre.と。

あとはずっと静かなものだ。
あなたが女を起こすまで、女が目覚めることはなかっただろう。
(-338) oO832mk 2023/09/30(Sat) 19:46:12

【独】 歌うのが怖くとも カンターミネ

「5番から8番。23から26、拡大。……違うな」「12番のこれは?」「違う、下水はとっくに抜けてるはずだ」「車の事故の報告」「車種は?」「俺が分かると思うか?」「何の為に情報チームやってんだバカ」「『先生』がキレる前に出せ」「……出たぞ、フィアット500」「渋いな……」「待て、フィアット?」「どうした」「確か黒眼鏡の旦那の店から出てった車の映像、監視カメラに」「回せ」「赤の……フィアット500!」「先生の虫を辿れ!」「45ブロックの監視カメラに該当アリ!」「時系列順に!」「中心部から随分離れてくぞ」「……もしかして、"港"じゃないか?」「一番近くのドローン回せ!」「2番ドローンが向かってる」「映ったか?」「いや……」「待った、橋の辺りに確か虫置いてたろ」「それだ、映像は?」「――通ってる!」「来たぞ!時間は!?」「12分前!」「このコースなら港湾倉庫だ!」「空撮は?」「待ってろ……あ!」「居たか!?」「居た居た居た!赤のフィアット500!」「旦那の港湾倉庫かよ!」「あそこかあ」「そりゃ見つからんわ……」「感心してないで連絡しろ!他の奴より先に先生を送り届けるんだ!」「了解」「あいあい」


情報チームの精鋭が目標を捉えるまでかかった時間は、
他の連中に比べれば随分短かった。
その理由があるとすれば、普段から『先生』が、
あちこちにばら撒いていた虫のおかげだろう。

今回の法案の事件のような、特定個人の会話を聞いたり
ある一定の人間だけを追い続けるというような
局地的な精度を要する物には効果が薄い一方で。

『何が、どこを、いつ通過したか?』

そういったものの情報に関しては、カンターミネの虫と、
情報チームの連携による『網』は無類の強さを発揮した。
秘匿回線によるメッセージが届けられ、
カンターミネの目に入るまで数秒。

「――来たか。」


少しの不安と、覚悟を混ぜた呟きが小さく漏れる。
気が付けば外は夕陽で赤く染まっている。
顔に不安が出ないよう"王子様"の顔をしてから、
彼女を出来るかぎり優しく起こす。

そうしておよそ15分のラグを経て、
カンターミネとダニエラを乗せた車が、港へと走り出した。
(-372) shell_memoria 2023/10/01(Sun) 2:45:20