人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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【人】 暗雲の陰に ニーノ


──天気予報は当たった。

晴天の元、数日ぶりに見た陽光は眩しい。
一応迎えが来るらしい、とは看守からの言伝。
家に戻った後のことを考えると些か気が重いような、そうでもないような。
とりあえずは待つしかないかと行き交う人々を眺めていた、時間。

見慣れた長身は視界の端に掠めればすぐに分かるもので、「ぁ」と声を発した。
自然足がそちらへと寄っていく、聞きたいことがあるんだ。
貴方の罪状は知っていて、それが到底許されないものだと理解していて、尚。
怒り、よりも悲しかった。されど罪を裁くのは己ではないから。

──夕暮れの公園、二人並んで食べたパン。
──声を上げて笑った表情、全てが落ち着いたらの先の話。

だから、手の届かぬ遠くに行ってしまう前に。
ヴィトーさん、いつもみたいに名を呼んで、その先を、


──パン。


距離は開いていた。まだ数メートル先。
それでも見えた。胸から。落ちる。血が。
……なんで?


背後に居るのは誰。目深に被ったキャップ。
でも見間違えるはずがない。横顔は。
……なんで?


#BlackAndWhiteMovie
(29) mspn 2023/09/26(Tue) 23:26:22

【人】 暗雲の陰に ニーノ



「………………なん、で」


止まる足。
立ち尽くす間に二つの人影は遠ざかっていく。

パレードが横切っていく。
全ては足音の元に掻き消されてなかったことみたいに。

心臓がうるさい。
熱は下がったはずなのに頭がぐらついた。


なんで。



──それしか言わないな、って、誰かが言った声が蘇る。
でも、なあ、だって。

それしか言えないだろ、こんなの。


#BlackAndWhiteMovie
(30) mspn 2023/09/26(Tue) 23:27:20

【秘】 リヴィオ → 暗雲の陰に ニーノ

伸ばすまでで、触れる勇気のなかった左手は、
君の手が迎えてくれたからその熱を感じて。
そして君にもまた、男の異様に熱い温度が伝わる。

ふっと緩まる表情はきっと、君だけが見れたもの。
その熱に安堵したのだ、君という陽だまりのぬくもりに。

だから、男の心はここでまた少し
晴れた
のだろう。
雨と曇り空ばかりで陰り続けていた心は、
あと少しをもっと、確かに、頑張れそうだ。

だから俺はきっと、
大丈夫
だ。

まだ握り返し、その指先を撫でるには怖くて堪らないが、
君がくれるぬくもりから決して、逃げることはなかった。

「…うん、とても素敵な提案だね。
 是非、その散歩にご一緒させてくれ」

同じ向きに小首を傾け、更に表情を緩めて笑う。
未来を語る事もまた、逃げ出したくなる心はあるが、
それでも君を見る翠眼は揺れることなく、真っ直ぐに。

「……あぁ、待っていてくれ。
 俺に出来ることは、彼と少し異なるが………」

「──俺に出来ることを、頑張ってくるよ」
(-21) sinorit 2023/09/27(Wed) 17:19:08

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → リヴィオ

異様に熱い熱は己にも覚えがあるそれだった。
言いたいことが他にも増えそうになったけれど。
だとして成し遂げたい何かが其処にあるのだろう。

緩む表情が安堵したのを見る。
貴方の心を少し、暖めることができただろうか。
ならば今は抱く心配は抑え、伝えるべきは別のもの。

「…………うれしい」

こわくなんてない、大丈夫。
幾度でもそう伝えるように、同じ言を重ねて笑う。
指先が離れなかったことも、提案を受け入れてくれたことも。
今、この瞳を真っ直ぐに見つめてくれることも。
その全てがうれしくて堪らないんだ、だから。

するりと肌を撫でた指先は直に離れることだろう。
頑張って、大丈夫、せんぱいなら。
ひとつひとつ浮き上がる気持ちを最後、選んだ一言に載せる。
見せた笑みはこの牢獄の中で浮かべた、何よりも一番のもの。


「──いってらっしゃい、リヴィオせんぱい!」


たったひとつに込める願い。
どうか、どうか。
天気予報が、当たりますように。
(-50) mspn 2023/09/27(Wed) 23:12:03

【人】 暗雲の陰に ニーノ

>>37 ルチアーノ

呼ばれる声で白昼夢から醒めるように。
ハッと貴方へ向けられた顔は憔悴しきったように酷く青褪めていた。

「ルチアーノ、さん」


それでも目の前の人が誰かは分かる、理解できる。
鉄格子越しではない再会に伝えたいことは他にもあったはずだ。
けれどどうしたって今、震えた唇が紡ぐのは。

「…………ねえさんが、ヴィトーさんを、撃った」


先の現実をなぞらえる言葉だった。
そうしてはっきりと形にしてようやく喉奥まで飲み込めた気がして、くしゃりと顔が歪む。
泣きたくはなかったのに涙が溢れてしまいそうで。

「……撃った、んだ」


なんではもう声にしなかった。
理由なんてわかっているから。
でも、わかっても、……わかっただけ、だった。

「…………ふたりとも、だいすきなのに…………」


#BlackAndWhiteMovie
(49) mspn 2023/09/27(Wed) 23:14:33

【人】 暗雲の陰に ニーノ

>>52 ルチアーノ

なぜ貴方が謝るのか分からなかった。
以前のようにその理由を問い質す余裕はなかったけれど。
それでも語り掛けてくれる言葉を拾い上げていれば頭の芯が徐々に冷えていく。

誰に、何を。
言葉にせず胸で繰り返した直後、最後の一言にははっと目を瞠り。

「…………ううん」


幾らか落ち着きを取り戻した表情で、首を横に振った。
目を塞がないと決めた、己を責めて泣くこともまた。
此処はもう何もできない牢の内ではないだろう。

……誰に、何を。

もう一度、繰り返したところで解は不明瞭だ。
だが、そうなってしまう理由だけは明らかだったから。

[1/2]

#BlackAndWhiteMovie
(53) mspn 2023/09/28(Thu) 18:09:30

【人】 暗雲の陰に ニーノ

>>52 ルチアーノ

「ごめんなさい、情けないところ見せて……」

「……あはは、ルチアーノさんさ。
 面倒見いいね、ほんとに。
 あの、手助け……というか、また、甘えていい?」
 
「いま、ひとつだけ」

少し遠くで見慣れたひとが自分を探す姿が見えた。
家からの迎えで、ならどうしても帰らなくてはいけなかった。
その先でないと、どれほど貴方の手を借りたところで解は得られないと分かっている。

だから今は、ただ貴方を見上げて乞う。
強く在りたいと願う。
されど気を抜けば目を塞いでしまいそうになる。
その弱さを見抜いてくれた、貴方にだからこそ。

「───"大丈夫だ"、って言って」

「……今のオレ、全然そんな風に見えなくても。
 それだけ、……言ってほしいんだ」

「おまじない、欲しくて」
「……だめかなあ」


[2/2]

#BlackAndWhiteMovie
(54) mspn 2023/09/28(Thu) 18:11:27

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → リヴィオ

──それは天気予報が当たった数日後の夜半。

その足は在るべきとされた場所から遠ざかり、人気のない路地を辿っていただろうか。
何時ぞやと違い空を覆う厚い雲はなく、星は瞬き月もまた同様に光を注ぐ。
それでも届く光がまばらな路地は暗く、黒く。
だからその色に溶け込み壁際でしゃがみ込む人影にもすぐ気づかないかもしれない。

だとして、「みゃぁ」、不意に猫の鳴き声がして。
「なぁに」、落ちた声は貴方にも聞き慣れたもの。

深く被った黒いフードの奥、翠眼は貴方の姿を捉えた。
驚いたように瞬きを繰り返したのもきっと見えなかっただろうが。
男は立ち上がり、手を伸ばした。

「──リヴィオせんぱい」

つんつん。
つついた腕は三角巾をしていない側だ。
貴方が視線を向けるのなら、パーカーのフード下には見慣れた後輩の顔があるだろうし。

「……そのカッコで散歩にしては、遅くない?」

ついでに割とすぐ下に白い子猫の姿もあった。
服の中に入れられて顔だけ出てる。
(-136) mspn 2023/09/28(Thu) 23:27:46

【秘】 リヴィオ → 暗雲の陰に ニーノ



その日の夜、
男は友人の静止も聞かずいつもの徘徊を行っていた。

だって家にひとり、退屈は紛れない。
それなら晴れた外を歩く方が余程男の頭も冴えるというもの。
余計なことばかり考えてしまう時間は何より苦痛だ。

昼の活気を失い、落ち着いた夜の街を歩きながら、
ふと、足は人気のない路地へと迷い込むように曲がる。

暫く歩けば、猫の鳴き声。
ふ、と……海にも似た翠がそちらへと向かう。
向いたのは、猫の鳴き声がするからではない、けど。

「………おや、ニーノ。こんばんは」

右腕をつつかれながら笑みを浮かべて、
君と猫を交互に見やる。

「…いや、何。俺を呼ぶ可愛いの声がしてね。
 呼ばれてしまったならどんな格好でも出歩くしかない」

「……というのは勿論嘘で、こんな格好だからこそだよ。
 目立つだろう?両手が自由じゃないってのはさ」

だからといって出歩かない選択はないし、
医者に怒鳴られながらも入院は断固拒否した。
こういう所は強情だ、
な予感がするのだから仕方がない。
(-153) sinorit 2023/09/29(Fri) 1:54:33

【人】 暗雲の陰に ニーノ

>>61 ルチアーノ

その距離は普段なら恐れを抱くものであったのに。
声を望んだ今はどんなものより安堵を渡してくれた。
たったそれだけでよかった、一人で呟くよりもずっと。

見つめる真っ直ぐな眼差しが差し出してくれるのは、勇気と信頼。
それがいつかの夜と重なって喉奥が詰まる心地がして。

「……うん」

貴方の手に指先を重ねて、返す。


「オレは、"大丈夫"」


そうしてようやく、揺らめいていた水面が静寂を得た。

おまじないが無くても立てる強さが在れば本当はよかった。
だけど今はそれは叶わないから、あなたの手を借りさせて。
それでもいつかの先には自分がだれかに、それを与えられる人になれるように。


[1/2]

#BlackAndWhiteMovie
(64) mspn 2023/09/29(Fri) 9:28:31

【人】 暗雲の陰に ニーノ

>>61 >>64 ルチアーノ

続いた沈黙は二呼吸分。
直に貴方の指先を離した男は、一歩後退ってやっと笑えた。

「……へへ。
 ありがとう、ルチアーノさん」
「すっごく助かった、どうにかなっちゃいそうだったから。
 オレさ、ちゃんと答えを見つけて……言いたいことを伝えられるようになるから」

姿に気づいてこちらに駆け寄ってくるのは年嵩の女性だ。
"坊ちゃん"と呼ぶ声にひらりと左手を振って、最後に貴方へと向き直る。

「──おまじない、大事にする!」
「今度はもっと落ち着いたところで話そうね。
 ……ヴィトーさんのこと、よろしくおねがいします」

もう一度だけ『ありがとう』を繰り返せば、じゃあとそのまま女性の元へと歩いて行く。
親し気に彼女へと声を掛けた男の姿は道脇に止められていた車の助手席の中へと消えて、車体もまた遠ざかっていくことだろう。

すれば今度こそ残るのは人々の賑やかな声と、時折宙を舞う鮮やかなリボンと花だけ。
其処に在った凶行など誰も知らないまま、晴天の元を白い鳩が一羽横切って行った。

[2/2]

#BlackAndWhiteMovie
(65) mspn 2023/09/29(Fri) 9:30:31

【人】 暗雲の陰に ニーノ


「──坊ちゃん。
 ……旦那さまが夜、お帰りの後に話があると」

窓の外で流れ行く景色を見ている。
先程の光景は未だ瞼の裏に張り付いて離れはしなかったけれど。
心は、彼のお陰で幾分か落ち着きを取り戻している。

「……うん」

大丈夫……大丈夫だ。

沈黙が長く続いた車内で瞼を伏せ続ける。
口をようやく開いたのは信号待ちの時間。

ひとつを尋ねた、『かあさまはもう長くないの』。

声はない、それでも髪を優しく撫でる指先を感じた。
薄々勘付いていた現実の答えだ。
ならばこれは相応な時で、これ以上にない機なのだろう。

不思議と悲しさはなかった。
それよりも安堵が勝る。
その事実こそが何よりも苦しかった。

#SottoIlSole
(66) mspn 2023/09/29(Fri) 9:50:47

【独】 暗雲の陰に ニーノ


一歩踏み出せずに、扉の向こうから覗き見た最初を覚えている。

初めてオレが見たそのひとはベッドの上で泣き続けていた。
傷だらけの腕が示すのは彼女がどれほどに自分を傷つけていたのか。
新たに血を滲ませようとする指先を握る彼の顔も痛みに満ちていて。


『ねえ、どこなの』


耳を打つ濡れた声は、頼る先を見失った幼子のそれによく似ていた。

#SottoIlSole
(-179) mspn 2023/09/29(Fri) 9:52:17

【人】 暗雲の陰に ニーノ


「夜までは身体を休めてくださいね。
 食事も食べられそうになったら、いつでも」

変わらず優しい家政婦に声を掛けて、自室へと足を踏み入れる。
まず目に入ったのは扉近くの数箱の段ボール。
何が入っているのか一瞬思い出せなくて……でも、すぐに思い出した。
置きっぱなしだったからもうダメになってしまっているかもしれない、たくさんの果物。

……ああ、そうだったな、そういえば。

怒りも憎しみもやはり湧かなかった。
あるとするなら上手く騙してくれたことへの感心と。
最後、取り繕えなかった綻びへの好意だろうか。
やさしいひとだって、今でも思っているんだ。

……ぽすり。

誘われるように重たい身体を寝台に載せれば、毎夜目を通した本が其処に在った。
手に取り頁を捲れば幼い子供の字が書き綴られている。
うとうとと落ちていく瞼が最後読めたのは幾度も辿った一文。


おとなになったら、けいさつかんになる!!!


#SottoIlSole
(67) mspn 2023/09/29(Fri) 9:53:24

【独】 暗雲の陰に ニーノ


学など無い子どもだったから、まず必死に文字を覚えた。
全ての遅れを取り戻すように寝る間も惜しんでペンを握った。

学校で話す友人はその場だけの付き合い。
遊びに誘われてもごめんねと答えて帰る。
そうまでしないと到底、
この頭では『夢』に追いつけそうになかったのだ。

あの頃を思えばなぜか、
社会に出てからの方が幾分も余裕のある生活で。

だからこそ、ずっと、ずっと。
道がぱたりと途切れたような感覚が、怖かったんだ。

#SottoIlSole
(-180) mspn 2023/09/29(Fri) 9:54:12

【人】 暗雲の陰に ニーノ


──名を呼ばれて目を覚ます。

気付けば外はどっぷりと暮れて暗闇に満ちていた。
起こしてくれた家政婦の顔は晴れたものではなくて。
彼が帰ってきたことを知り、立ち上がる。

部屋を出て向かうのは居間。
普段通りの整ったスーツ姿で、その人はソファに腰掛けていた。
右手に巻かれた包帯に視線が寄せられたのは一瞬だけ。
後は、テーブルに載せた一枚の紙を見つめていて。

「……逮捕は誤認に近かったそうだが。
 お前がマフィアと関わりを持っていたのは、事実だな」


固い声、感情の読めない色。
目を細め、「はい」とひとつだけを返す。
これほどの騒ぎとなり彼が知らない筈がなく、だから予感は当たったのだ。

「なら、言いたいことは分かるだろう」


この人にとってどうしたって許容できないもの。
そのラインをオレは知らず飛び越えていた。

ならばこれは、当然の帰結だ。

#SottoIlSole
(68) mspn 2023/09/29(Fri) 9:55:07

【人】 暗雲の陰に ニーノ



「ニーノ・サヴィアを
墓の下へと戻す



放られたのは黒い塊。
彼が見つめる紙の題名は死亡診断書。
記された名は見慣れた並びで。
死因は──『出血性ショック』。


「……選びなさい」



#SottoIlSole
(69) mspn 2023/09/29(Fri) 9:56:45

【独】 暗雲の陰に ニーノ

一目見てオレを引き取りたいと伝えた男の人の後ろを歩いて行く。
遠ざかる養育院での思い出に後ろ髪を引かれながら、彼を見上げていた。

『これからはニーノと名乗ってくれ』

感情の良く見えない横顔だった。
何を考えているのか知りたいのに、わからない。

『……死んだ息子の名だ』

わからなくて、わからない間に、困惑した。

『彼女の前だけでいい』
『代わりをしてほしい』

……急にそんなこと言われてもな。
見たこともない誰かの代わりだなんて、気乗りはしない。
返事はできず、一度足を止めてしまう。
彼も足を止めて振り返る、やはりその眉はぴくりとも動かないまま。

それでもふと落とした視線の先に、強く握り込まれた拳が在った。

『…………これ以上は、もう』


震えたそれは表情よりもよっぽど、彼の感情を示しているようで。
オレはしばらく視線を注ぎ、もう一度歩き始めた。

#SottoIlSole
(-181) mspn 2023/09/29(Fri) 9:57:43

【人】 暗雲の陰に ニーノ


……拾い上げる。

訓練で幾度か触ったそれは、最後まで人に放つことは無かった。
先輩に幾度か教わった撃ち方を思い出しながら左手に持つ。
利き手じゃないからブレそうだな。
ねえさんはどんな気持ちで、これを握っていたのだろう。

見つめて、見つめて、見つめて──その銃口を。
目の前の彼へと、向けた。

「────」


感情の良く見えない横顔だった。
何を考えているのか知りたいのに、わからない。
それでも彼が眉を動かすこともなく、静かに瞼を伏せた現実を見て。

「…………あはは」


……笑えてしまった。
ああもう、ずっとそうなんだ。

いつも、いつも。


#SottoIlSole
(70) mspn 2023/09/29(Fri) 9:58:47

【人】 暗雲の陰に ニーノ



「……恨んでほしいなら」


「もっと、うまくやれよなぁ」




手は落ちる。
懐へとその重みを仕舞う。

『ねえ、かあさまに会わせてよ』
『それでおしまいにするから』
オレは笑って伝えられただろうか。
返る声はなく、彼は小さく頷いただけだった。

#SottoIlSole
(71) mspn 2023/09/29(Fri) 9:59:32

【独】 暗雲の陰に ニーノ


『──ニーノ!』

花が咲いた、と。声を聞いて思ったのは初めてだった。
強く抱きしめてくれる腕は不思議とこわくはなくて。

『あぁ、おかえりなさい』
『心配してたの、ずぅっと待ってた……』

知らない誰かの名前で呼ばれて。
知らない誰かの帰りが喜ばれる。
困惑、動揺、ちがうのだと言いかけた刹那……けれど。

覗き込んだ表情は心底うれしそうに綻んでいた。
それがまるでようやく縋る場所を見つけた小さな己と重なった。
この世の掃き溜めの隅でも、絶え間ない愛情が降り注いだ理由。
だいすきな姉を置き去りに、陽光の元に己だけが拾われた理由。

それらの全てがもし、
この奇跡のような偶然に繋がるために在ったのなら。


『……ただいま』


声は自然零れ落ちる。
そのときから死んだ彼の生は引き延ばされ。
オレの人生はそこで止まっていた。

#SottoIlSole
(-182) mspn 2023/09/29(Fri) 10:01:38

【人】 暗雲の陰に ニーノ

寝台の上で眠る、随分とやせ細ったその人の頬を撫でて囁いた、「かあさま」。
薄らと開いた瞳はオレとよく似た色をしていて、この姿を視界に入れた途端にほらまた、花が咲く。

「……ニーノ、ずっといなかったきがするの」

「そんなことない、かあさまが寝てただけ」

嘘を吐くことに胸は痛まず、騙すことに罪悪感も無い。

「ニーノ、手はどうしたの」

「転んで怪我をしただけ、大袈裟だよね」

願うのはどうか、彼女がまた迷い路に落ちてしまいませんように。

「そう……、…………ねえ、ニーノ」

「……うん」
「…………ニーノ」

「なぁに」

ただ名を呼ぶだけで体力を消耗し、また落ちかける瞼に微笑んでみせた。
この世はきっと、残酷でやさしい嘘に満ちている。
信じるには時に辛く、眼を塞ぎたくなる現実が其処にある。
だとしてこの身に手渡された祈りに偽りはなかったんだろう。

──オレが、この人の幸せを願うように。

閉じ切った瞳、冷えた額へと唇を寄せた。

#SottoIlSole
(72) mspn 2023/09/29(Fri) 10:03:01

【人】 暗雲の陰に ニーノ



「……良い夢を」

愛してるTi amo.



──彼女の前で一番の本当を告げ、寝顔をしばらく眺めた後に部屋を出る。

自室へと戻って、着替えて、荷物を纏めて、居間を覗く。
彼の姿はもう其処には無くて、最後の挨拶なんて一言もないまま。
ならばと出て行こうとする背を呼び止めたのは家政婦で、差し出されたのは一枚のカード。
全部がへたくそな人だなと、やっぱり笑ってしまった。

軽くなった身体で夜の道を歩いた。
ひとり、星空を眺めていれば先のない孤独を見たような気がした。
だから『大丈夫』をまた形にする、それだけで不安が溶けていく。

向かう場所はどこにしようか。
……そうだな、今日はとりあえず。


#SottoIlSole
(73) mspn 2023/09/29(Fri) 10:03:59

【人】 暗雲の陰に ニーノ



──みゃぁ、白い子猫が鳴いて擦り寄った。


「……んぁ〜なあに。
 新入りに挨拶しにきてくれた?
 そうだよお揃い、住所不定無職の名無し……ああいや、名前はあるな」

「今日はミルクはないぞ〜。
 朝になったら買いに行ってもいいけどさ」

深夜、誰も居ない公園の原っぱに寝転んでいたらすりとちいさなぬくもりに擦り寄られる。
頬を左手で撫でてやりながら、あたたかな存在に知らず目が細まった。

「これからどうしようかな。
 死人が歩いてちゃだめだよなあ、街は出ないと……」

それでもそうする前にやることはある。
解は見つかった、誰に、何を言いたいのかも。
けれどこの夜が明けるまではここで一人、空を見上げて居よう。
ようやくに訪れた彼の死を悼もう。

言葉を交わしたことのない、知らない誰か。
オレに今日までを与えてくれた、陽だまりの子ども。

#SottoIlSole
(74) mspn 2023/09/29(Fri) 10:05:07

【人】 夜明の先へ ニーノ



「……おやすみ、ニーノ」


上手にらしくあれただろうか。
彼女が望むただ一つの太陽に。

陽は何れ落ちる。
夜は必ず訪れる。

されどまた、輝きは昇るだろうから。


その時は違い無く、己自身の光で誰かを照らせますように。


#SottoIlSole
(75) mspn 2023/09/29(Fri) 10:06:07

【人】 夜明の先へ ニーノ

……ぼんやりと夜空を眺めて過ごした夜。
空が白んできた頃にようやく身体を起こした。
本当に仲間だと思ったのか懐かれてしまった子猫を、……悩んでとりあえず抱えて。

さて、しばらくはどうしようか。
『ニーノ』が死ぬとなればスマートフォンは置いてきてしまった。
手持ちにあるのは幾らかの現金と、少しの着替えと、それから入っている金額を聞いたときに耳を疑って笑ったキャッシュカードだけ。

他にはなんにもない、けれど小さなころよりはずっとましだ。
金があれば大体はなんとかなる、誰かも言ってた。
あまり顔を見られないようにとパーカーのフードを深く被り、ついでに黒いマスクもしておく。
不審者っぽいかな?合ってるからいいか……。


会いたい人にはこの足で。
場所がわからないなら連絡先だけメモをした紙はあるから。

「……行くか」

返事をしてくれるみたいに、子猫が腕の中でまた鳴いたのでひとり笑った。
(76) mspn 2023/09/29(Fri) 10:50:22

【鳴】 夜明の先へ ニーノ


──早朝も早朝。

貴方のスマートフォンに着信が一件入る。
表示される名前は非通知、或いは『公衆電話Telefono pubblico』。

怪しいそれにあなたがもし出てくれるのなら。


『……あ、ろーにい?』

『…………ですか?あってる?』


聞き慣れた声が届くだろうか。
(=0) mspn 2023/09/29(Fri) 10:51:08

【秘】 夜明の先へ ニーノ → リヴィオ

「昼に歩いたら目立つね、目立つよ。
 でもオレが言いたいのはそうじゃなくてぇ〜……」

鉄格子越しに面会をしたときより、貴方の口振りは普段通りだった。
それでもそんな姿でこんな時間に歩いていることを思えば、だ。

「……どう見たって重体なんだから。
 ちゃんと寝ていた方がいいってこと」

じっとするのを苦痛に思う何かがあるとは察せられた。
もう一度突いて唇を尖らせてみたが、ぱ、と話せば溜息ひとつ。
そうしてフードを取り去って笑う。

「会えたからうれしいけれどね。
 昼空の下だったらもっとうれしかったけれど」

「オレ、警察官やめたんです。そういうのって聞いてるのかな……。
 だからせんぱいにもどうやって会おうかって考えてたところ。
 まだ散歩は続けるつもりですか?」

ニーノ・サヴィアは死んだことになったから、実際に署で伝えられるのは訃報だが。
やめたのはやめたで事実だから、口調が砕けているのもそのせいだった。貴方も気にしないのだろうなと甘えて。
多分Uターンさせるべきなんだろうが、Uターンしたくなくてここにいるのだろうなと思う。
なら最後の問いは"話す時間がありますか"と同義だ、肯定が返るのなら場所を変えようと思って。
(-188) mspn 2023/09/29(Fri) 12:49:47

【鳴】 夜明の先へ ニーノ

『声でけえ〜』

電話口では貴方の大声に何やら笑っているらしい声。

『刑務所出たよ、ついでに家無し子になった』
『いや、今はそれいいんだ、あの、その』
『やっぱり困っちゃって……ええと……』

よくはなかったが、家が無いのは最初に戻っただけなので。
あまり深刻に捉えていなかった、今の一番の問題は別。
無期限、回数無制限、いつでも言っていい。
に、甘える最初がこれなのもどうかと思うが。

『ぁの〜、…………あのさぁ……』
『……よくないとは思うんだけど……』


よくないなあと思っているから声はちいさくなる。
犯罪だよなあ、わかってるんだけど。

『………………こ、』
『…………戸籍って……お金で、買えるかな……?』


身分を証明するものがないと、何をするにしても困る。
まだはっきりと貴方の素性を聞いたわけではないけれど。
想像がついている弟は、よくない頼り方をしているところだ。
(=2) mspn 2023/09/29(Fri) 12:52:08

【鳴】 夜明の先へ ニーノ

『ぶんせき、しゅうせき、ようしえんぐみ……』


呟きを復唱する声は正直あんまりよくわかっていないのが伝わるだろうか。
養子縁組ぐらいはぎりぎりわかる、他はわからない。
わからないから感心していた、あ、やっぱり詳しいんだな、と。
で、『Yes』の答えが返れば表情が明るくなる。貴方には見えないものだけれど。

『ほんと!?』

『よかったあ、スマホ無くてさ〜。
 新しく契約したかったんだけどそういえばなんもねえ〜と思って……』

『……あはは、ごめん。
 困ったの頼り方の一番最初、こんなで。
 お金はあるんだ、好きに使って』

もっと兄弟らしい可愛げのあるものだったらよかったのだが。
それでも手放しに頼りたいと思える家族がいることは幸福だと心から思う。
相変わらず包帯で固定された右手で、なんとなしに電話機を撫ぜた。

『今家?二度寝する?
 顔見たいな、ろーにいが良い時間に家行きたい』
(=4) mspn 2023/09/29(Fri) 20:48:15