#ハノイの塔



頑固者、聞かん坊はどちらも同じ事。
そこにある違いは、迷わず、見苦しくたって
意地を張り通せるかどうかだけ。

「確かに皆が飢えたとして、洗濯物が溜まったとして
　貴様は痛くも痒くもないだろう。
　しかしここでこうしている時間と家事をこなす時間、
　そのどちらが貴様にとって有意義かは、
　もはや問うまでもなかろうな」


「貴様に言われるまでもなく、私は私の為に向き合い続ける。
　生きるという事に、人間の善悪に！！」

時には善人が罪を犯し、時には悪人が善行を為す。
そんな人間の矛盾が、看守用のストレスの根源。

「確かに皆が皆共に暮らせるのはこの世界の中だけだ。
　しかし、それが今生の別れというわけでもあるまい」

項垂れた様子のあなたの胸ぐらを離し、
共にここまで来たグレイ達を振り返る。

「私はこのテストプレイを終え次第、
　自分で自分を買い上げ、保護団体へ身を寄せる。
　ここで出来た友人の……一人か、二人と共にな」

#ハノイの塔

「当然だ。我々は皆苦しんでいるからここに居る。
　しかし、苦しんでいるだけでもないから。
　倒れそうになった背を、止まりかけた足を、
　誰かの存在や言葉に支えられてまた歩き出すのだ」

「それが生きるという事だろう」

額から流れる血をぐっと袖で拭う。
振り撒かれた薬の効果で、既に傷は塞がっている。

「さて、帰るとするか」

「今度は、皆でな」

棄てた盾を拾い上げ、車窓の外を見遣る。

車両はもう動きを止めているだろうか。
目的地に着いたなら、お優しいRPGならば
中間地点くらいは置いておいてくれているだろう。