サルガスは、表情こそいつもと何も変わらない。
否、変わらない様に振舞っているだけである事が、
意識さえ残っているなら、既に貴方には分かっているのだろう。

観測者は嘘を吐く事が苦手だ。
それには自分の本心を抑えつける事も含まれている。
親しく接し、けれど自らには理解できず、
しかし尚も此方に笑顔を向けようとするであろう貴方に、
その眼の色は、恐怖と抵抗感に、強く揺らいでいる。

――それでも視線を逸らさない。

処刑対象の体が貴方の一撃によって大きく傾く。
一つにまとめられた髪も、顔も、振り子のようにぐらりと揺れて。

その動く最中に、処刑対象は唇を震わせる。その動きを貴方は見ることが出来ただろうか。

「サルガス殿。
えらいね。おれ、ちゃんときみのめをみているからね」

貴方に咲く赤と、自らの身に返る赤と。
それでも尚も貴方の眼を真っ直ぐ見るサルガスに、より強く揺らぎの色が見える。

それは、サルガスが貴方の命を確かに刻んだからなのか。
それとも、貴方の言葉がサルガスに届いたからなのか。

握られる手に視線を移す。

「……。」

手袋越しに温度が伝わってくる。
じわり、少しずつ、熱が混ざっていく。
軽く手を握り返す。

――生きた人間の温度だ。

「……。暖かい、な」

謝罪の言葉に、構わないという様に小さく首を振り、一言告げる。
普段無表情であるサルガスには珍しく、ほんの少し。安心したような笑みを、表情に浮かべていた。

ひそ、ひそ。霊能結果のお知らせ。

ひそひそ。了解したの合図。

聞かれると、視線をドリンクの方に移し、口を付ける。
そうして一息吐いてから、再び口を開く。

「……そうか。
　自分で気付かずに、疲弊しているというのは……確かに、あるのだろう。
　けれど。貴方に対してという件で、なら……」

其処で一旦言葉を切る。
迷った様に口ごもり、考えて。零す様に告げる。

「…… ……。
　貴方の出した『全員がゲームを放棄する選択肢』の提案が、
　私には引っかかってしまった。」

レビューの内容を覗き込む。
何処かで見た様な、というよりある意味ギャラシャで自分が思ったような感想の羅列。

……あっ、これ駄目な奴だ。

「…… …… ……。
」

どうやらバーナードの見解は正しいらしい。サルガスはそんな風に思っていた。


でもクソ映画はクソ映画で楽しいので乗るつもりの様です。

こちらはあなたの気など知らずにドヤ感全開だ。

「そうだろう？バーナードくんに映画を選ぶコツは星の数と、好意的なレビューの量って教わったからね」

多分すごく騙されやすい。
幸運の壺とか、有名画家のイルカの絵とかすぐ買っちゃうタイプだ。

「ふふ、面白そうだろう？これ、私も見たいと思ったんだ。君がよければ一緒に見てもいいかな？」

「そうか……そうか？？
　好意的というか、これは……」

大丈夫なのだろうか、このシステム管理者。
何時か騙されて船が乗っ取られたり等で大変な事になったりはしないだろうか。サルガスは少々心配になった。


「ああ、それは構わない。
　時間もあるし、私はこの手の物もある意味楽しめる」


むしろ他の人に飛んでこなくてよかった。具体的にはキファとか。

「映画の選びかたは有識者のバーナードくん直伝だからね、大船に乗ったつもりでいなよ」

バーナードに対する風評被害も甚だしい発言である。


「えーっと空席は……あるね、大丈夫だ」

端末からシアターの個室の予約をする。このゲームが始まってから何回か映画を見たのだ、この辺はすっかりお手の物のようだ。

「お、君も映画に詳しいのかい？それなら今度バーナードくん呼んで三人でなんか見ようか。この間聞いたけど、だっけ？コミックが原作で話題になったやつ、あれ見たいと思ってるんだ」

「……すまない。遅くなった」
「占い師テンガン。今日の占い結果を報告する」


「俺視点で残る人狼はキュー、キファのどちらかだった。
どちらも俺に対し疑いを向けていたが、キファは勘違いなどから来るものが多く感じた。

後は……２日目に言いだしたのはバーナードだったが、誰もツッコミを入れないまま霊能をローラーする方向で進んでいたのも気になってな。１日目の段階では、霊能者か占い師か、という話だっただろう？
だから、もしかすると人狼側はあの段階で占い師COしていたのがどちらも騙りだと感付いていたのかもしれないと思った。
それで霊能者ローラーは確定事項だという方向へ持って行きたかったのではないかと。

故に、カストルが最初占ったキューを占った。
……結果、黒。真占い師が潜伏している事は想定済みだったようだな」

「そうなのか……つまり彼も、ふむ……」



予約を取っている様子を横目に見つつ。
一人で映画は見ていないので、予約の仕方等は存じない。ので有難かったりする。

「詳しいという訳ではないのだが……ただ、映画を観る事は好きだな。道連……いや、仲間が増えるのは歓迎したい。今度はバーナードも誘おう」

タイトル及びコミックが原作。元のコミックを知っている訳ではないが、とんでもない地雷臭をサルガスは察知した。
映画観る前に原作も読んでおこう。

「いや、構わない。……其方も色々有った事だろう、お疲れ様」

「占い結果に付いて了解した。
　出揃い次第、他の結果とも合わせて公開させて貰おう。よろしく頼む。」

「あぁ、いつもすまない」

「……と、言いたいところだが。
俺もカストルに続いて議論の場で、俺の口から告げさせてもらった。
ムルイジの分については任せよう。既に受け取っているのなら、サルガスの判断で出してもいいと思う」

あなたを先導してシアターの個室に向かう。

「何か食べるものいるかい？ここね、あらかじめ注文しておくと予約した席に注文したもの運んでくれるんだ」
「まあ、そのシステム作ったのは私なんだけどね。ふふん」

ふふんと口で言った。
それはそれとして、あなたが何か食べる物や飲み物を告げればそれを注文するだろう。

「私も映画ほとんど見たことなかったんだけどさ、ここのゲームに参加してから色んな映画見たいと思うようになったんだよね。
バーナードくんとか、ギャラクシーシャークの感想教えてくれた君のおかげかな？」

シトゥラは心からそう思っている。