「酔って大人しくなるほど簡単な生き物じゃないよ、俺」

　囁くように付け足した。

「知ってるよ。君を酩酊させるにはもっとキツいのじゃないとね？」

普段控えてる手段も、無礼講の間なら試せる。そのつもりでいる。

「おお怖。君とお酒を飲むのは控えなくっちゃね？」

　手段なら酒以外にもいくらでもあるだろう。無礼講の間なら次の勤務時間や就寝時間を気にする必要がないのだ。それを分かっている以上、こうして投げかける言葉はただのじゃれ合いに他ならない。

これはプロローグと呼ばれる時空のどこか、色々交差してるだろうからふわっとさせておこうかな。
とにかく君が部屋で休んでいて、かつ都合の良さそうなタイミングで、端末が鳴るだろう。

『暇？』

端的過ぎるメッセージを雑ととるか、アポ無しで押し掛けない律儀ととるかは君次第だ。きっといつものことなのだろうね。

忙しいなら引き下がるし、訪ねて良さそうなら程無くして生身で君の部屋を訪ねようかな。

>>304

「じゃあ……折角ならゲームが始まってから、ね。
　君も拘束とけてからの方が、きっと楽しいでしょ？」

「…？わかりました。
教えていただけるのを心待ちにしておりますね」

　プロローグ時空のどこか、そう、きっと縁があってこの邂逅はあるはずだ。端末に表示された一文と呼ぶのも躊躇われる二文字がいつも通りであればこそ返事もいつも通りのものになる。

『暇だよ。部屋にいる』

　たったそれだけの返答が自室への誘いであるとあなたであればわかるだろう。自分の居場所を明かすのは来られても何一つ問題ないからなのだから。

　さて、あなたが部屋を訪れるのであればスイートルームを彷彿とさせる看守用の自室があなたを出迎え……ない。通常であればあたたかで落ち着きのある色彩で構成され、憩いの場として機能するはずのその空間には殆ど色彩がないのだ。インテリアの多くはシンプルかつ角の少ないもので構成されており、その多くはまっさらな白をしている。
　そんな白だらけの空間の中、色彩を纏った青年はベッドに腰掛けてあなたを見ていた。

「やあナフ。今日も元気そうだね」

君の返信を受ければ過不足なく意図を理解して、そう間を置かずに部屋を訪れるだろう。
その無色が見慣れぬものなら首を傾げただろうし、いつも通りならばいっそ落ち着きすら感じたかもしれない。
どちらにせよ、浮かび上がる君の色彩は眩しくて、綺麗なものを見るみたいに目を細めただろう。

「君も、いつも以上に元気そうじゃない？」

持ち込んだ炭酸水のボトルをふたつ。喉乾いたでしょう？って片方をぽいと君に。。

そこらに椅子があるなら、そちらへ。なければ勝手に君の隣へと腰かけながら、続ける。

「しかし、良かったのかい？、君のお気に入りだろう？」

こんな場所に持ち込んだりして。

　平時でもこの無色は展開されているものだから、あなたが感じたのは落ち着きだったことだろう。距離感が狂いそうな白まみれの中にいるのが慣れている青年は炭酸水のボトルを受け取るだけは受け取った。すぐに飲もうとはせず、自分の膝の上に置くだけに留めたが。
　

　椅子は邪魔にならないよう壁際に寄せられていたが、あなたがそちらに座ろうとするのであれば手招きをするに違いない。椅子であろうとベッドであろうとも、話しやすい距離に移動してくるのであれば問題ないと。
　投げかけられた質問に細められた目には失望に近い何かが滲んでいて。

「……ああ、のこと？別にいいよ、そろそろ飽きてきたところだったから。従順すぎると飽きるんだよね」

　言葉に嘘はないようだった。言葉が真実である以上、新たなペット探しのために無礼講に参加したのだということも伺えるかもしれない。

回避された悪戯には小さく舌を出して見せるかもしれないけど、別に残念そうな顔をみせるでもなく。まぁ君ならそうするだろうと思ってたし。

それでまぁ椅子も遠いし、手招きもされたしで、君の隣にスプリングの軋む小さな音を立てて落ち着いたんだろう。これもきっと珍しくない位置なんだろうね。
プシュ、と空気の抜ける音と共に自分の炭酸水を開封して、見せつけるように喉を鳴らして一口嚥下してから。

「ふぅん？」

横に並んでるだろう同僚へ視線を流して、ついと目を細めて。

「そ。新しいの、見つかるといいね。
　じゃあアッチは好きにしていいんだ？」

挑発というよりは確認するように。
折角の無礼講、玩具は多い方が愉しいからさ。

　あなたが隣に座るのであればそれに合わせて男の膝に乗せた炭酸水も揺れたのだろうし、嚥下とともに動いた喉に自然と視線は向いていたことだろう。幾度かベッドの上で遊んでいるあなた相手であればこの距離もこの位置も珍しいものではない。

「正直なところ今回は望み薄だから見つからないかも。
　がっかりすぎるよ」

　なんとも驚くべきことであるのだが、そう。
　大体過去の自分のお手付きなのだ。

「一応まだ俺のものではあるから、堂々と君のもの主張されたら嫌だけどまあ。抱くも殺すも好きにしなよ。身体もなかなかいい具合してるし使い勝手もいいよ」

「君の手が広いのは知っていたけどさ……流石にそれは吃驚。
え、殆どってことは一応味見してないのいるの？
他に美味しかったのいる？良く啼いてくれそうなのとかさ。」

何とも最悪の情報交換要求。

「しかし、そう……従順すぎて飽きた、ね。
を参加させたことってあったっけ？」

少なくとも話題の人物とこの看守が同時に無礼講に参加したことは多分ないのだけど。

「存外、この遊びで君が気に入る新しい味が出てくるかもよ？」

ぺろ、と小さく己の唇を舐める仕草。

「だって君、オレのことも結構好きでしょ？」

、ちょっと同類の気配を感じるんだよね、と。確信というよりは随分と適当な口ぶりで付け加えた。

「味見してないのはクロノは個体間での記憶の引継ぎがあるようだから避けた、シェルタンはまだ手を出してないけど……俺が手を出すより触手と遊んでもらったほうがいい気がしてる。
　看守だけどアルレシャは美味しかったなあ、多分俺みたいなのとの遊び方をよく分かっているタイプでしょう？」

　最悪の情報交換に応じる。最悪同士仲のよろしいことで。

「参加させたことはないんだけど、……へえ、なるほど？新しい味ねえ」

　す、と目を細めて。あなたが濡らした唇を見つめ、それからあなたの瞳に視線を戻して。許されるのならば己の舌であなたの唇を濡らしてしまおうか。

「うん。俺、結構ナフのこと好きだよ。囚人だったら間違いなく飼ってたくらいには。
　だから本当にが君と同類だったら、……、……どうしようかなあ」

　
「なあ、ナフ看守。
　『あれ』、本当にバーナードの『絶好調』かい？」

やや不自然な文。
それは本気ではなく、調子を聞いている事。
どう見ても先程、スピカが膝をついていたのは見たのにこの問いだ。