[　指先に落ちる口づけが少しくすぐったくて
　　　けれどね、　そんな余裕もすぐになくなっちゃう。

　　　投げ出した身体はそのまま、あなたの腕の中。
　　　今までのどんな距離よりも近くて、
　　　　


　　　……そう、]

　[　名前を呼ばれ、目を閉じる　]


　　

　　[　風が通りぬける。


　　　　　　　　野菊が、揺れた　**　]
　　　　　

[ 人狼の娘の本を閉じてから。
　また、一冊。もう一冊と、本を読むのが楽しくて
　ついつい長居をしてしまっていた。


　
　ついつい読みふけってしまうのは、
　この場所が居心地が良いせいだろう。]

　　そろそろ、帰らないと……

[ 読んでいた本を棚に戻した。
　それから、個室に一度戻って、空の皿を手に取った。

　カウンターに戻り]

　
　　ごちそうさまでした
　　美味しかったです

[ 店員さんがいれば、そう声をかけて、皿を返した。]

　　それじゃ、僕はこれで……

[ 元の世界に帰ろうと、踵を返す。
　だが、ふと思い出して、振り返る。]

　　もう、会うこともないかもしれないけど
　　折角、出会えたから……

[ 握手を求めるように、手を差し出した。]

　　僕は、レックス
　　――――君と同じ人ではないものさ

[
　
　手を握り返してくれたかどうか。
　それは気にせずに、今度は振り返らずに。

　入ってきたときは違い、
　しっかりとした足取りで、扉を開いた]

　
　

　
　　

[ 扉を開くと、同時に鳴り響く鐘の音。
　扉の向こうに、そびえ立つ館。

　左右に広がる庭園。
　左手に湖、右手に森。

　固く閉ざされているはずの大きな門は、

　"ゲーム"の参加者を、
　受け入れるために、飲み込む為に、今は開け放たれていた。]

[ 門の向こうに無数のが舞っている。
　それは、やがて人の形になる。

　煌めく
　透き通った
　蘇芳に染まったドレスに、

　ゆったりとした豪奢なドレスを、
　ふわりと揺らして、美しい魔女は、――現れた。

　魔女は、優雅に微笑んで、ただ待っている。

　　
　"ゲーム"の駒が、その手に収まるのを。]

　　…………僕が、僕のまま帰れたらいいな

[ カツンと一歩。
　扉の向こうに、踏み出せば、
　ゆっくりと扉は締まっていく。

　扉が完全に閉まる前に、
　少しだけ名残惜しくて、振り返った。]

　
　　――――さようなら、

[ 血生臭くない、穏やかな世界とはお別れだ。
　最後に浮かべた微笑みは、少しだけ寂しさが滲んだ。**]