［　目を開けると、白い天井に虫が湧いていた。］

［　柄石膏ボードとカーテンレールが包む部屋に
　　消毒液が充満して、頭が痛くなる。
］


　　　………………。


［　ボクが起きたことに気づいた看護婦さんが
　　慌てて先生を呼びに行く声が聞こえる。

　　けど肝心のボクは、まだ身体が動かせなくて。］

［　ボクは手を伸ばした
　　誰もいない空へ、手を伸ばした。

　　　　　　　　　誰も居ない事実に、目を背けて。］**

［　伸ばした手を掴んだ人は
　　甘く優しい香りがする人だった。>>10>>12

　　独りかもしれないという恐怖心が
　　少しだけだけど薄らいだ気さえする。
］

　　えっと、とりあえず…大丈夫です。

　　なんか身体はまだ痛いけど
　　まだ耐えられるくらいのものだから。

［　ボクがキミにそう尋ねた時だ。

　　先生がボクの所へやってきて
　　ボクの身に起きたことを説明してくれた。］*

［　ボクが彼女の名前を聞いた途端に
　　空気が凍りついたような気がした。>>21

　　ボクの言っていることがおかしいと。
　　信じられないと、そう言いたげな顔で
　　ボクの記憶を否定する。］




［　でも明らかにボクへの意地悪じゃない。
　　本当に、心から信じられないって顔だ。

　　すると決して噛み合わない鎖が
　　先生が繋げてくれた。>>22>>23］

［　何も知らないまま産み落とされた赤子のように
　　右も左も分からないという恐怖心に
　　頭がクラクラと悲鳴をあげてしまう。

　　それでも落ち着いていられたのは
　　ボクと同じくらい真剣な表情で
　　この事態を受け止めている人がいたから。>>24］


　　　あの…先生…

　　　ボクの記憶って…
　　　それに、ボクの父さんと母さんは…


［　ボクの質問に先生が首を横に振る。
　　ボクの記憶が戻る確証はなく、
　　地道に治療を続けていくしかないらしい。
］