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【妖】 生贄 セレン[ これは返すべきだろうか。 それとも貰っていいものなのだろうか。 見た限りでは普通の金貨にしかすぎず、 自分の物ではないそれを懐に入れる気もおきず。 けれど、彼を訪ねる理由にはなった ] ($39) pisca 2019/04/13(Sat) 22:02:42 |
【妖】 生贄 セレン斜陽の頃なら、起きているかな。 [ それとも土足で暴きにいくべきか。 未だ踏ん切りがつかない臆病さは独言に満ちて、 そっと溜息を重くし、部屋の扉を潜って階段を降りていく。 外を歩けば何か変わるだろうか、この沈む意識が。 記憶を辿るように歩いて何かを見つけることができれば、 誰かの何かが救われたりするのだろうか。 足は食堂ではなく薔薇の生い茂る庭園の中へ。 陽に香る薔薇の匂いは濃密で、 手入れをするには子供の手には余る広さに映る ] ($40) pisca 2019/04/13(Sat) 22:23:46 |
【妖】 生贄 セレン…… [ 赤い、紅い、痺れる程に濃く香る薔薇。 葉が多くを吸って枯れる花弁も目に付く庭園に、 ぽつんと立って改めて思い知るのは独りだという意識で。 空腹が限界を迎えるまで思考を巡らせた。 どうせ陽が僅かでも傾くまでは動きは鈍いままで、 やることなどそれきりしかできない。 過去の扉を開く時計の針を得る勇気を得るまで、 手間のかかる薔薇の庭園が残されてある意味を。 なにより、“おんなじ”の意味を、幾度も、幾度も ]* ($41) pisca 2019/04/13(Sat) 22:39:25 |
【妖】 生贄 セレン[ 森の影が伸びる頃合いまで、 思考に沈む間の手は余計な薔薇の芽を摘み、 荒れを緩やかに押し留めようと従事していた。 陽は白い肌を赤く焼く。 それに気付かない程に幾度も繰り返す思考は、 子供部屋に残された痕跡のいくつかを中心としている。 忍ばされたナイフを片付けなかった理由。>>$50 見逃されたのか、残されたのか、 描かれた絵の笑顔の意味とその心情も。 涙の滲む羊皮紙には息を詰まらせた。 これを見たのだろうか、彼は。 見たうえで彼は子供たちに望み続けたのだろうか ] ($57) pisca 2019/04/14(Sun) 1:15:07 |
【妖】 生贄 セレン[ 考えても答えを持つのは夜の名を持つ彼だけで、>>$56 その名を名乗った彼を思い出し、唇をきつく噛み締める。 そこまで繋がれば己の鈍い頭でも理解はできた。 明らかに同じ村の出だろう奉仕を仕込まれた女の子。 似た名前と、彼女だけが持たされた金貨のお守り。 愛されるべき子供の行方はここで、 ここはその女の子と、夜の怪物の居場所だったのだろう ] ($59) pisca 2019/04/14(Sun) 1:24:52 |
【妖】 生贄 セレン[ 食堂で手を洗って、 空腹を今更思い出し林檎を一つ手に取った。 森を探して食料を得る時間は思考に奪われ、 麺麭を焼くにはもう陽は落ちて、 焼きあがるまではお腹が持ちそうにもない。 それに、音色が途絶える前に。 裸足と違って乾いた音を響かせて、 ピアノに誘われ部屋へと戻り扉を叩く。 与えられた部屋なのに客人のように。 誰かのための部屋だったここに慣れてはいけないと、 檻を課した無意識を発露しているのには気付かずに ] ($62) pisca 2019/04/14(Sun) 1:37:27 |
【妖】 生贄 セレンおはよう、ニクスさま。 [ 顔を覗かせ、唇だけが覗く格好で“笑う”。 左手にはぴかぴかの赤い林檎がひとつ、 右手には棘を払った薔薇一輪を挿したグラスがひとつ。 ピアノの傍には寄らず薔薇を飾るために、 窓辺に寄ってそこにグラスをことりと置いてから ] ($63) pisca 2019/04/14(Sun) 1:43:40 |
【妖】 生贄 セレンお部屋をたくさん見て回ったんだ。 あなたのことを描いた絵も、手紙も、ナイフも、 残していたのはわざとだったりする……? [ 問い掛けは直球で、 けれど言葉遊びのように答えを期待するでもなく。 フードを脱ぎ顔を覗かせ小首を傾いで見せながら、 外套の内側に入れていたコインを掌に乗せ差し出した。 あの子のお守り。 知らなかったのならこれを持つに相応しいのは、 己なんかではなく、彼の方だろう ] ($64) pisca 2019/04/14(Sun) 1:58:05 |
【妖】 生贄 セレンそう……? でも、これは誰かに想われた子供の証だから、 ぼくが持っていていいものでは、ないかな。 [ 掌の上の金貨は受け取られずに、 落ちた言葉に白金の髪を不思議そうに揺らす。 美麗な顔立ちを顰める様子に、>>$67 思い出に浸ることすら苦痛なのだろうと察しはした。 けれど日誌に綴られた金貨の正体は己から最も遠い物で、 己の元では思い出を穢してしまうとでも言いたげに。 冷たい指を動かすのを視界の端で捉えながら、>>$68 とりあえずは金貨を楽譜台の上へと置き去りにして、 彼を未だ知らないからこそ深い溝を自覚し、苦笑する ] ($80) pisca 2019/04/14(Sun) 15:22:45 |
【妖】 生贄 セレンあの子は太陽のようで眩しいひとだった。 あんまりはっきり思い出せないけれど、 ぼくと似てる場所なんてどこにも…… [ 男にしては細くて高い声音は少し似ているか。 自声に関しては認識が歪んでいそうで、 その想像すらも烏滸がましいと思える眩い陽の少女。 シスターに心配されてお守りを貰うだなんて、 双眸の物珍しさと年齢の都合だけで捧げられた己には、 知りたくもない現実を突きつけられたかのよう。 生贄としての立場は“おなじ”でも、 そこにすら居場所はなかったのだという現実を ] ($81) pisca 2019/04/14(Sun) 15:27:26 |
【妖】 生贄 セレンううん、ごめんね。 貴方を殺す勇気はまだ出ない。 貴方を殺してもいいなって思えるくらいに、 早くなれたら……楽にしてあげられるのにね。 [ 故に問い掛けには、>>$69 失望を伴うだろうとしても素直に答えた。 拒絶され続けた世界で最後と信じた場所を失い、 そのまま繋げられると思えるほどには、 未だ彼を思いやろうとする感情には足りない。 最初に触れられてなければ、 この手を穢す躊躇いはなかっただろうか。 誰もが疎んだ異色を躊躇いなく覗かれて、 何かから一瞬でも逃れられたのだと安堵しなければ。 考えても結論などは出る筈もなく、 きっと、大人をひと匙混ぜた曖昧な笑いを浮かべて ] ($82) pisca 2019/04/14(Sun) 15:41:16 |
【妖】 生贄 セレンううん大丈夫、でもありがとう。 林檎は好きだし、これひとつで足りるよ。 [ 空腹に慣れているからこそ、林檎ひとつで十分。 そう伝えて足は自然とピアノの椅子の傍らへ。 彼の視線から逃れるようで距離を縮めたのは、 もう一つ言葉を足す反応を間近で見たいから ] ($83) pisca 2019/04/14(Sun) 15:59:18 |
【妖】 生贄 セレン……あなたの、食事は? [ 人間は林檎で足りると伝えたのだから当然のように。 血を啜ると噂に聞く夜の怪物に尋ねる言葉は、 どうしたって残酷に響くのだろうと想像しながら。 紅茶では到底、大人の身体は足りないだろう。 見ていない場所で何かを食べているのならその理由を。 陽が落ちて夜に満ちた室内では異色の双眸は真っ直ぐに、 まるで人のような男を射抜いて、静かに問いかけた ]** ($84) pisca 2019/04/14(Sun) 16:01:22 |
【妖】 生贄 セレンあなたはぼくが幼くて、 誰かが愛してくれるかもしれない。 諦めは早いよ心配してくれたでしょう……? ……でもね。 それを知ることがあったらきっとここに居なかった。 陽に弱くてろくに陽射しを歩けない、 瞳はちぐはぐで、互いの視力もよくはない。 抜け落ちた色の髪も陽の下じゃただの白髪で、 要らないってずうっと言われ続けてここに送られて、 ここがなくなったらどこにも行き場はないんだ。 ($91) pisca 2019/04/14(Sun) 22:29:02 |
【妖】 生贄 セレン[ 責める口調ではなく訥々と事実だけを重ねて、 それこそ本心から不思議そうに。 食事をとらずに顔色を悪くしていった彼が、>>$85 人になりたかったらしき彼が、 もし、今も……いまも、食べていないなら? ただの想像でしかない。 この問いが彼の逆鱗に触れるのかもしれない。 けれど、自分は彼の事が知りたかった。 知りたいからこそ惨めな過去を伝えた上で言葉にし、 それこそ“期待”するのならと、狡く ] ($92) pisca 2019/04/14(Sun) 22:31:26 |
【妖】 生贄 セレン……あなたのいちばんたいせつなものって、なに? [ 己の過去にはなにもなかったからこそ。 その疑問を彼へ、そっと、柔らかく投げかけた ]* ($94) pisca 2019/04/14(Sun) 22:44:35 |
【妖】 生贄 セレンそーだね、多分、違うんだと思う。 あのこは誰かに愛される素質も、資格もあって、 ぼくはなにも無かったんだ、そういう違い。 同じ場所にいても違うなんて不思議だよね、世界って。 [ 慣れていることだ、これも。 故に憐憫を誘おうとしているわけでも何でもなく、 ただ事実だけを伝えているに過ぎない淡々とした口調で。 穏やかな笑いは崩れることなく、 子供らしからぬ諦めを宿し、笑顔は保たれたまま ] ($106) pisca 2019/04/15(Mon) 2:15:57 |
【妖】 生贄 セレンどれくらい待ったのかな? ……なんて、そんなことも知らないのに、 貴方にもう少し待って欲しいって。 自分勝手にも言えちゃうんだ、ぼくは。 ニクスさまが辛そうなのが凄くわかるのにね? [ 月のようだなんて綺麗な言葉に、>>$96 滲んだのは自己否定の言葉の羅列ではあった。 物心というものを知った頃から奴隷で、 否定され続け、やがて憶えて深く沁み込んだ記憶。 だからこそ睫を震わせただけで流して、 双眸を細めて言葉を受け取ったことだけを知らせつつ。 寂しそうな夜の怪物に己の醜悪さを伝えて、 日誌に残されていた少女の優しさと重ねる違和感を誘う ] ($107) pisca 2019/04/15(Mon) 2:22:15 |
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