いいですか。
　仮にも、イシあるイシと成ったのです。
　生りモノに比べて不慣れ？　理由になりません。
　滅びを前に、老いを捨て、救われた事実。
　それを受け入れて従羊たることです。
　大事なことですよ？

［ひび割れた道路、ポツリと置かれるは、
先ほどの大爆音の元凶《紅水晶：月詠人》。
黒い背表紙の本を片手に、かの水晶へと滔々と語り掛ける］

　ラブ《愛》・アンド《そして》・ピース《イシ》。
　イシとなったからには平穏とともにあれ。
　ボクの教えは守っていただきませんと。
　
　繋いだ先がキミにとっての味方《名残りの記憶》だったのか、なんぞ報告書とやらの敵かは知りません。
　ですが、上限《ﾘﾐｯﾀｰ》を設定するとか。
　自分の身を守ることを試みなければ。
　それとも、砕け散る《自殺》ことがお望みでしたか？

［もし仮に、爆音に興味を惹かれて爆心地へと向かったのならば。
小さな紅の水晶相手に説法する、帽子にスーツ姿の青年を目にしたことだろう。
その光景がどう受け取られるかは、受け取った側にお任せする**］

［さて、それは説教に至る前だったか後だったか。
何とはなしに、視線を感じた>>138］

　"視られて"おりますねえ。
　まあ、ボクの徒としてはあまり強く文句も言えませんけれども。

［なにせ、イシは遍くかなたこなたに普及しておりますので。
なにしろ、ボクの収入源の一つは──なんてよそ事に意識を散らしたところで、手元の水晶が断続的に光を放つ］

　大容量晶子通信の許諾？
　えー。面倒くさいですねえ……

［帽子をくるくると手元で回しながら、肩をすくめた］

　認証《ｱｸｾｽ》。
　一《ボク》は全《ボク》、全《ボク》は一《ボク》……
　
　固有イシ、躯体印
　
　──開通どうぞ？
　
［世界に遍在するイシ、それらを束ねるモノ
　──中枢《ボク》へと己を繋ぐ。

ボクの徒はこうして、
世界中に居ながらにして世界中の躯体間で共有するのだ。

平時にそれでどういうことをしているのかって？
繋ぐや否や、聞こえてきたイシに耳をすませばすぐわかる］

　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　
　　　　　　　　『だよ！』

［彼方の観測地点より、次々ともたらされる「積極観測打診」。
「成り立て」に比べて年季の入った面々は、相応に好奇心が強かった］

　　　　　　　　　　　　
　
　　　　『』

［イシたちの映像収集能力。
即時の、タッチ変換──アニメでも劇画調でも──を経て、
ちょちょいと問題になりそうな発言や、
本人特定できそうな要素に編集《ﾋﾟｰ》をかければ。

製作コストほぼゼロで、ド迫力の戦闘アニメから恋愛映画まで、
なんでもこいの映像製作グループの出来上がりなのである］

　……はぁ。許可します。
　問題にならない程度に、やっちゃってください。
　
　　　　　　　『『『『Ai Ai！』』』』

［と、戦闘光景アニメの作成許可を出すのだった。
ちなみにによる映像配信は、
ボクの徒にとって少なくない現金収入になっている。

電脳に詳しい面々ともなれば、何とはなしに
この集団から人がましさのないことに気づいているだろう。

──実際。
いくつかの組織から宣伝用アニメの作製を依頼されて、
納品していたりもする。

閑話休題（なにはともあれ）。
時計台での戦闘を見つめるイシたちの熱意は、
果たして当事者たちに気づかれたかどうか*］

［>>193　つまみあげられたイシは、ほのかに生暖かく。
うっすら輝いていただろう］

［叩きつけられながら、
震えたり光ったりすることしばし］



［叩きつけられながらの撮影行為、再開。
なお既に外観はヒビだらけの模様*］

［そして地面に叩きつけられ──反応喪失《ロスト》。
かのイシの断点は貴重な映像確保のため、殉死したのだった。
なお、］


　……訴訟問題になるので当該映像は封印されまーす。

『『『えっ』』』

　あたりまえでしょうこのスカタン。

［アイドルに喧嘩を売らないように**］

［さて。
アニメ化作業《ピーピング》に精を出す愉快なイシあるイシたちだが、
分類するならメギドの言う"観測者"に該当するのだろう。

イシ自体は普遍的にあるものであるゆえに、
ボクの徒《ボク》としては「ぼーっとしてたらなんか映り込んだ」、
という表現のほうが正しいように思えるのだが。
まあ、イシあるイシでもなければそうそう只人は意識するものでもなし。

なにせ、そこいらじゅうにあるので。
イシなき器《イシ》自体は。]

［先だって、月詠人を昇格させたように。
イシなきイシへの干渉もまた、ボクの徒《ボク》の大事な役務なのだ。

であるゆえに。
周囲にある適当な石を拾い上げ、帽子の中に入れながら謳う］

　認証《ｱｸｾｽ》。
　一《ボク》は全《ボク》、全《ボク》は一《ボク》……

　接続対象、【R.M.T.】……晶子距離、37万5528�q──許容距離範囲内。
　月なるイシの塔《ｽﾄﾚｰｼﾞ ｵﾌﾞ ﾑｰﾝｻｲﾄﾞ》、晶子接続準備完了。

　顕現せよ、イシあるイシ。


　────

［謳い終わるや否や、月面より不可視のチカラが帽子へと流れ落ちる。
見る間に石はその鈍色の膚を透かせていき、ほの白い水晶へとしていく。そして──］





［ローアングラー、再　顕　現］

　ハイ、それじゃ一応復活はさせましたのでね。
　後でちゃんと本人見つけて謝罪しておきなさい。

［そも、あなたがたの本分は、迫り来る異変の兆候を観測し、
速やかに共有することなのですから］

　……説法ばかりで時間を潰してしまいましたね。
　そろそろ、街に入るとしますか。

［時計塔の交流風景を、別のイシ越しに見届けながら。
ながら歩きでようやく、不死視街《ﾌﾞﾚｲｽﾞ・ﾌｪﾆｯｸｽ・ｼﾃｨ》に足を踏み入れるのだった*］