人狼物語 三日月国


75 【身内】星仰ぎのギムナジウム【R18G】

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【秘】 迷子 メレフ → 小さな心臓の サルガス

「…………」

中に入って。まず目に入った通告書に目を通す。
それが、どんな内容であろうと。少しだけ眉を寄せて。

君の方を向いて。
腕を引いて、その小さな体を引き寄せる。
君はきっと、驚くだろうか。そのまま、優しく抱きとめる。

「……それなら、ぼく達とおなじだろ。
 ぼくもシェルタンも、大人のところに行ってきた。
 
 何なら、ぼくは大人をナイフで刺して呼び出されてる。仲間だろ」

そんなこと言うな、と。
今まで君の強さに甘えてきた事を思って、胸が痛くなる。
もっと早くにこうしてやればよかった。体質なんて、どうにだってできたのに。
(-343) otomizu 2021/06/01(Tue) 17:38:27

【秘】 小さな心臓の サルガス → 迷子 メレフ

「っ、だめだ、むりしなくていいんだ、大丈――」

 貴方の体質のことを知っている。それが寛解したことは知らない。
 だから何より、頭に浮かんだのは貴方が以前に苦しみ、傷ついたことだった。
 よわい力で押し返そうとした腕は、しかし貴方の言葉によって止まる。

「――メレ、フ。メレフは……
 でも、でも、だめなんだ。ぼくは、やってはいけないことをしたから、だめなんだ」

 通告書になぜ呼ばれたかは直接的には書かれていない。
 ギムナジウムの中の掟に反し、規律を乱し、大人に対して反目したことだけだ。
 だからほんとうに何をしたかは直接は伝わっていない。けれども、焦った言葉は出るばかり。
 震える体は失望や嫌悪をおそれてだった。貴方に、友人に。おそろしい自分を知られたくない。

「ぼくは、ぼくは、だって。やってはいけないことをした。もう、だめなんだ。
 だって、ぼくは。もし、奇跡があって、もし、大きくなれたなら、

 
医者になりたかったんだ。人を、みんなを救いたかったんだ


 だから。人を傷つけてしまった自分は、もう何にも許されてはいけない。
 事実がある限り。そればかりはもう言い訳できず、許されてはいけない、己への裏切りだった。
(-348) redhaguki 2021/06/01(Tue) 17:50:43

【秘】 小さな心臓の サルガス → 迷子 メレフ

 人を救いたかったこの手は。
 あの日、人を傷つけ。
 覆しようもなく、穢れてしまった。
(-349) redhaguki 2021/06/01(Tue) 17:52:05

【置】 小さな心臓の サルガス

【吊り懇願ロール】

 子供たちが夕食を終え、一人は自主学習に勤しみ、一人は消灯までの時間を友人と楽しむ。
 ひそやかな変化を肌の外に感じながらも、おおむねの子供たちはいつもどおりの生活を送っている。
 多大な変化があったとしても、己の身に降りかかるものがなければ、みなそれと気づくことはないのだ。
 ひとりふたり、消えたとて。それが自分の友人でなければ、想人でなければ。
 見ないふりをして、本当に見ずに済んでしまうのさえ、たやすいことであるのだから。

 だから、加えて少しの異変があっても、それを疑う者はなかった。大人が関わるならば尚更。
 よけいなことを考えないほうが幸せになれると、みな、知っている。
 一人の教員が一人の生徒の部屋までわざわざ訪れ、迎えに来ても。余計な詮索は、なかった。

 少年は教員に連れられて歩く。背中の傷を庇うように、動きはかすかに鈍い。
 顔色は未だ青白さがありながらも、おもては惑いもなく状況を受け入れているように見えた。
 少年も、教員も。なるべく人気の少ない廊下を渡り、棟を渡っていく間、一言も喋らなかった。
 教員のほうは抵抗に備え多少の緊張が見られたが、警戒に引っかかることなど何ひとつなかった。
 少年の目はまっすぐに前を向き、不要に周りを見ることもなく、然るべき場所へと歩み入った。

 後ろでかすかな喧騒が聞こえる。風がざわめくようなそれは、こどもたちの声だ。
 悩み、苦しみ、痛みを負った子供たちは数多くいた。そしてその多くは、反目を示さなかった。
 いなくなった子供のことを探さない。いなくなる子供のことを顧みない。
 もはや見えなくなってしまったことの者など、意識の内側にはなくなってしまっている。
 今日も、ギムナジウムはささやかな幸せと無邪気に彩られていた。

 これより"治療"される少年の姿を、大人の領域は格納する。
(L16) redhaguki 2021/06/01(Tue) 17:55:03
公開: 2021/06/01(Tue) 18:00:00

【置】 小さな心臓の サルガス

 ――……

 ひどく、ひどく憔悴した様子のまま、少年は部屋へと戻された。
 深夜のことだった。もはや誰もが寝静まり、或いは素知らぬ出来事として聞かぬままを決め込んだ。
 本当ならば歩くのもやっとなのだろうか? けれど、異常を抱えた体は神経を鋭敏に尖らせ、
 ふしぎなほどに少年の体を突き動かし、からくり人形のように歩ませてみせた。
 解放された少年が何を受けたのか、或いは何を見たのか。如何程の懲罰を下されたかはまだわからない。

「は、は、はは。ははは、はは」

 けれど、少年は笑っていた。想像の埓外のものを見て、或いは受けて。
 このギムナジウムがどのような施設であるかを、理解してしまった。故に、受け止めきれなかった。
 小さな体は誰にも届かない空笑いを水滴のように廊下に落としていきながら、
 幽鬼さながらにまっすぐに、歩いていた。手には、外から拾い上げた襤褸と輪縄を持って。
 見るものが見れば怪談としてひそやかに噂しただろうか、でも、見たものはいない。
 柔らかな足音はいびつにかすかな旋律を響かせながら、まっすぐにひとつを目指している。

「ああ、ああ。ぼくは、なんて。おろかで、残酷だったのだろう。
 これほどまでなんて。このばしょが、こんなところだったなんて。なのに、なにも、知らずに。
 ぼくは、なんて無責任に、おもみのないことばを、みんなにかけてしまえたのだろう」

 笑っていた。笑っていた。あらゆる望みを絶たれ、体と心は支えを失った。
 冷え切った涙がまるい頬をそろそろと伝って襟首を濡らす。
 言い表しようのない感情の荒波が、少年の心を襲った。ゆえに、壊れかけてしまったのだ。
 ついには足取りは一つの部屋へたどり着き、誰もいない室内へと歩み出す。

 食堂は、まだ朝の用意もせずに静まり返っていた。
 この場所が動き始めるのは生徒たちが起き出すよりも少しばかり早いだろう。
 働くものさえいない暗い大部屋は、普段の陽気を忘れたようにしんと冷たくなっている。
(L17) redhaguki 2021/06/01(Tue) 17:55:19
公開: 2021/06/01(Tue) 18:20:00

【置】 小さな心臓の サルガス

「いないものにされた、あなたがたを。ぼくはどれだけ理解できていただろうか。
 ごめんなさい。きっとそのなかには、無神経なことばさえもあっただろう。
 ありがとう。おろかで、正しくあなたがたのことを守れないぼくを、見守ってくれて」

 懺悔の言葉は、誰にも向けてはしまえない。言ってしまったところで、何になる?
 自己満足にすぎない韜晦を明けっ広げにしたところで、かれらの苦痛は取り去れない。
 
「けれど――……ああ、それならば。ぼくが、見ないひとにも、わかってもらえるよう。
 この場所がけっしていいものではなくて、身を守るものがそこにはないということを。
 みんなに、わかってもらうから。あなたがたを、ひとりきりにはしないから。
 あなたがたを守れなかったぼくの、これがさいごの献身です。
 おとなが触れられたがらないものを、ぼくが、みなにおもいださせます」

 少年は知らない。決死の覚悟が、"回収"の終了により無為になることは。
 少年のしたこと、それを見るものの記憶は、ほとんどが少年そのものの記憶と共に消失するだろう。
 布石にはなりえないのかもしれない、それでも、何か一つでも。
 "大人"へ対抗するきっかけになればと、その身は魂の使命感で動かされていた。
 それは絶望の熱が突き動かす妄念だったかもしれない。冷静で正当な決起ではなかったかもしれない。
 それでも、少年は。祈っていた。

 食堂の梁に縄が通され、人間ひとりぶんの体重を支えるに十分なしかけが作られる。
 いつも座って談笑し、食事をしていたあの椅子は。今は靴の下にある。
 ぴんと引っ張って確かめ、用ごとを果たすに支障ないことを確かめると、縄に両手をかけた。

「どうか、ぼくで。ぼくで、さいごでありますように。
 だれも、見ないふりなどさせず、しないように済みますように」
(L19) redhaguki 2021/06/01(Tue) 17:55:38
公開: 2021/06/01(Tue) 18:40:00

【置】 小さな心臓の サルガス

 椅子に登り、自分の首に縄をかける。重みで滑ってしまわないようにしっかりと首の下に通し、
 食堂の真ん中で少年の体は宙に浮かされるようになった。
 涙が縄をしとどに濡らし、皮肉にも皮膚にしっかりと食い込むようになった。

 人間の脳は活動を停止する前に、幸福を呼び起こす物質を出して苦痛や不安を取り除くのだという。
 まるで酒に心地よく飲まれているような幸福感を覚え、愛するものらが想像の中に現れ、
 走馬灯のようにしあわせな光景を映し出す。それが現実に非ずとも。

 間際に彼は何を思うだろうか。きっと、自分の友だちと、その友だちのことだろうか。
 想像の中の風景には大人はおらず、身の回りに居たひとびととそれらが大切に思うひとびとを、
 若木と青草の匂いでいっぱいに囲まれた、青空の下で笑い合っているのだ。
 そこには苦痛もなく、不運もなく、かれらをくるしめるものは何一つ無い。
 こどもたちの楽園ばかりを少年はただ願い、そっと、微笑んだ。

"みなさまがたの御手を借りての拍手の御力で、なにとぞこの私めの呪縛をお解き下さい。
みなさまがたのご好意の息で私の船の帆を一杯にふくらませて頂かねば、
みなさまがたをおもてなそうとした私の企てはすべて失敗です。

今や命令すべき精霊もなく、魔法を行う術もなく、
みなさまのお祈りによって救われるのでなくば、
私の終末は絶望あるのみでございます。

そのお祈りは上天に達し、
慈悲のお耳にあらしとなって吹き荒れて、
すべての罪のお許しを。
みなみなさまがよろず罪からの許しを願われるように、ご寛容のほど願います、"


 少年は、足元の椅子を蹴った。

"どうぞ私めにもこれにて自由を。"
(L20) redhaguki 2021/06/01(Tue) 17:55:59
公開: 2021/06/01(Tue) 19:00:00

【秘】 迷子 メレフ → 小さな心臓の サルガス

「無理はしてない。……今はまだ、大丈夫だ」

優しい君が支えようとしてくれた時、咄嗟に手を払ってしまった事を思い出す。
過去は変えられないが、今なら。
今君にこうすることで、少しでも力になれればと思う。
だから、離さなかった。

「……同じだよ。
 ぼくも、人を刺して―――その後、どうなったかは知らないけど。
 呼び出しを受けて、宿題を受けて……それだけで終わった。
 
 だから、大丈夫だ」

大丈夫だ、ともう一度告げて。
震える体を抱き締める。君が、そうしたくて規則を破ったなどとは思えなかったから。
無責任だと言われても、そう伝えたくて。

「まだやり直せる。お前は、まだこれからだろう。
 一度失敗したくらいなら……まだ、夢を追いかけられる。

 奇跡を祈るから。ぼくも、お前の友人たちだって」

だから、これ以上自分を傷付けるような言葉を紡いでほしくなかった。

何も知らない少年は、綺麗事を並べていく。
(-363) otomizu 2021/06/01(Tue) 18:30:27

【秘】 小さな心臓の サルガス → 迷子 メレフ

「そう……か。そう、だったんだね。ううん、何もなくて、本当に良かった。
 ぼくは……どうなるか、きっと、痛みよりも。みなに無視される方が、つらいかもね」

 慰む言葉をひとつひとつ拾い上げるように確かに聞き届けている。
 彼の優しさであったり、支えたいという心が伝わってくるようだった。確かに、届いていた。
 けれども。それでも。彼が案じているのは無垢な自分なのだと。
 ますますもって心に想うのは、自分が彼を騙しているようだということ。

「……うん。ぼくは、きっと……また、戻ってくるよ。
 また、きみの、みんなのちからになる。守って、みせるから……」

 少年はこれより先に何が起こるかはまだ知らず、まだ見聞きしていない。
 自分がこののちに何をするのかを、知りはしない。だから、そう、言ってしまえた。
 そこに希望があることをのぞみ、貴方の言葉を、受け取ってしまった。

「ありがとう、メレフ。……ぼくの友達。
 ああでも、ぼくはきみのこと。なにもしらないや、何が好きで、なにが得意か。

 ……いつか、きみのこと、また、聞かせてもらえたらいいな……」

 するりと。細いこどもの指は、あなたのおなかを押して距離をはなした。
(-369) redhaguki 2021/06/01(Tue) 18:42:48
サルガスは、メレフの"手"を放した。もう、彼が触れ合うことに恐れを持たないように。
(a103) redhaguki 2021/06/01(Tue) 19:59:08

 




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