マグを手に取り、スープに口をつけるまでを見守る。

「…………よかった」

嘘偽りなく紡がれた感想を受け取って使用人も柔らかな笑みをふわりと咲かせた。

「シェルタン殿は本当に美味しそうに食べてくれるね。その笑顔を見ることができただけで作ってよかったという気持ちで胸がいっぱいになるよ」

カストル様の気持ち、深くは分かりません。
ですが、なんとなくこのゲームが原因なのだと思いました。



「カストル様 私はいくらでも待ちます
白紙の楽譜 色づく日を楽しみにしております」

ですから、シェルタンはカストル様を見守っております。
･･･ゲームの終わりまで、終わりの後も。

「そう でしょうか
･･･そうであれば 嬉しいです」

作り手に伝わることは幸せなことです。
伝えたいからこそ、こうあるわけですしね。

「･･･ヌンキ様 約束 守っていただきありがとうございます
私は その 本当は怖かったわけですが」

小さく零すのは、それは、本音。
全てを語るわけでは、ありません。

「･･･ですから 嬉しかったのですよ」

ああして お声をいただけて、心の支えになりました。
本当です。嘘偽りなく。

「約束は守るものだからね！それにシェルタン殿は頑張った。
議論に参加する者として、皆の処刑を受け止める者として。
頑張った者がご褒美を貰うのは当然のことさ。喜んでもらえてよかった」

怖かった、と聞いて穏やかな眼差しを向けた。
参加者の中には自分のように死に肯定的であったり、覚悟を決めたり動じなかったりする者がいる。
でも、貴方は使用人の目からすればそのどれでもないように思えた。だからこそ、最期の最後まで笑顔であり続けた貴方の強さに少なからず驚いたのだが。

「シェルタン殿はさ、死ぬことによって何か得られるものはあったかい？
花を愛し、自然を愛し……命の価値が薄くなりつつある現代においても、大変人らしい価値観を持っているのだから死から何を得るのだろうと気になっていたんだ」

覚悟は、多少なりとも決めておりました。
だからこそ私は私自身に票を入れたわけですから。

それでも、怯えが消えるわけでもなく。
議論の間ずっと、恐れていたのです。

だからこそ笑顔に隠して、本音を消して、なんでもないような振りをして、死を得ました。


「･･･私が得たものは 恐怖でございます
確かに 生きる上で死への恐怖はこの生を深く 大切に思える時があるかもしれませんが･･･精神を疲弊させてまで得るべきものかと言えば 私はそうは思えません」

ヌンキ様を満足させるような答えは、ここには無いでしょう。
それでも、続く言葉を紡ぐため、口を開きます。

「無意味であると思っているわけでもございませんが」

「･･･なんと お伝えすればよろしいのでしょうか
このゲームが終わる頃 得たもの 得られなかったもの それは個々に存在するでしょう
そしてそれを経てこのゲームを楽しめたか それとも悪趣味だと蔑むかも別でございますよね

ですから 個々に考える力を得る面で言えば このゲームを行うことは大成功なのでしょう
それでも 心を削り 他者を疑い 痛みを得て苦しみ 嘆き 泣いてしまうのであれば･･･もう少し他に 生命を考える場を作ることは出来なかったのかと これを成功と言えるのかと 思ってしまうわけでございます」